線形代数 厳選良問 ~第三回~ 解答

第3回 解答

問題.7 解答

(1) 行列式の値を求める問題は、押さえておきたい便利な公式が二つある。それは、

\(・\begin{vmatrix}A&B\\O&D\end{vmatrix}=\begin{vmatrix}A&O\\C&D\end{vmatrix}=|A||D| \cdots (\star1)\) (\(O\) は零行列)

\(・\begin{vmatrix}A&B\\B&A\end{vmatrix}=|A+B||A-B| \cdots (\star2)\)

これら二つの公式はとても強力で、劇的に計算量を減らしてくれる。その威力は今回の問題に実際に適用してみると明らかになるだろう。

\(A=\begin{vmatrix}1&-1\\1&2 \end{vmatrix}、B=\begin{vmatrix}1&1\\-1&-1 \end{vmatrix}\) とおくと、与式は、\(\begin{vmatrix}A&B\\B&A\end{vmatrix}\) と書けるので、

\((\star2)\) から、

\(\begin{vmatrix}1&-1&1&1\\1&2&-1&-1\\1&1&1&-1\\-1&-1&1&2 \end{vmatrix}=|A+B||A-B|=\begin{vmatrix}2&0\\0&1 \end{vmatrix}\begin{vmatrix}0&-2\\2&3 \end{vmatrix}=2\cdot4=8.\)

ほら、すごい威力だろう?

(2) については、\((\star1)\) から、

\(\begin{vmatrix}1&-2&17&19\\3&4&23&29\\0&0&2&-2\\0&0&2&3 \end{vmatrix}=\begin{vmatrix}1&-2\\3&4\end{vmatrix}\begin{vmatrix}2&-2\\2&3\end{vmatrix}=10\cdot10=100.\)

これまたすごい威力だったろう?

今後、行列式の値を求める問題に出会ったときは、まずもってこれら二つの公式が適用できるかどうかを確認してほしい。

最後に (3) であるが、これは公式に頼ることができないので、上手に計算していこう!

転置しても行列式の値は変わらないので、

\(\begin{vmatrix}1&x&x^{2}&x^{3}\\1&y&y^{2}&y^{3}\\1&z&z^{2}&z^{3}\\1&w&w^{2}&w^{3} \end{vmatrix}=\begin{vmatrix}1&1&1&1\\x&y&z&w\\x^{2}&y^{2}&z^{2}&w^{2}\\x^{3}&y^{3}&z^{3}&w^{3} \end{vmatrix}\)

第3行に \(-x\) をかけて第4行に足して、第2行に \(-x\) をかけて第3行足して、第1行に \(-x\) をかけて第2行足すと、

\(\begin{vmatrix}1&1&1&1\\0&y-x&z-x&w-x\\0&y^{2}-xy&z^{2}-xz&w^{2}-xw\\0&y^{3}-xy^{2}&z^{3}-xz^{2}&w^{3}-xw^{2} \end{vmatrix}=\begin{vmatrix}1&1&1&1\\0&y-x&z-x&w-x\\0&y(y-x)&z(z-x)&w(w-x)\\0&y^{2}(y-x)&z^{2}(z-x)&w^{2}(w-x) \end{vmatrix}\)

これは第1行と第1列を消去できて、さらに第2列、第3列、第4列の共通因数をくくり出すことによって、

\((y-x)(z-x)(w-x)\begin{vmatrix}1&1&1\\y&z&w\\y^{2}&z^{2}&w^{2} \end{vmatrix}\)

次に、第2行に \(-y\) をかけて第3行足して、第1行に \(-y\) をかけて第2行足すと、

\((y-x)(z-x)(w-x)\begin{vmatrix}1&1&1\\0&z-y&w-y\\0&z(z-y)&w(w-y) \end{vmatrix}\)

これは第1行と第1列を消去できて、さらに第2列、第3列をくくり出すことによって,

$$(y-x)(z-x)(w-x)(z-y)(w-y)\begin{vmatrix}1&1\\z&w \end{vmatrix}$$$$=(y-x)(z-x)(w-x)(z-y)(w-y)(w-z)$$

大事

行列式を計算するとき、まず使えるかどうかチェックする公式:

\(・\begin{vmatrix}A&B\\O&D\end{vmatrix}=\begin{vmatrix}A&O\\C&D\end{vmatrix}=|A||D| \) (\(O\) は零行列)

\(・\begin{vmatrix}A&B\\B&A\end{vmatrix}=|A+B||A-B| \)


問題.8 解答

3元連立方程式をクラメルの公式を使って解く。クラメルの公式とは、$$A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b} の解 \boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x_1\\ \vdots\\ x_i\\ \vdots\\ x_n \\ \end{pmatrix} は、$$ $$x_i=\frac{det(\boldsymbol{a_1} \cdots \overset{\text{i}}{\boldsymbol{b}} \cdots \boldsymbol{a_n})}{detA}$$で与えられる、というものだ。ここで、$$det(\boldsymbol{a_1} \cdots \overset{\text{i}}{\boldsymbol{b}} \cdots \boldsymbol{a_n})$$ は第 \(i\) 列を定数項ベクトル \(\boldsymbol{b}\) で置き換えたものである。

なかなか意味が取れないだろう?何はともあれ、実際に使ってみると話は早いぞ!

クラメルの公式を使うにはまず、分母の行列式:\(|A|\) を計算する。これは、$$A=\begin{pmatrix}1&-1&2\\-1&2&-1&\\-2&3&-5\end{pmatrix} より、$$$$|A|=\begin{vmatrix}1&-1&2\\-1&2&-1&\\-2&3&-5\end{vmatrix}=-10-6-2-(-8-3-5)=-18+16=-2$$

次に、\(|A|\) の第1列を定数項ベクトル \(\boldsymbol{b}\) で置き換えた行列式を計算するぞ。

つまり、\(\boldsymbol{b}=\begin{pmatrix}4\\2\\2 \end{pmatrix}\) であるから、第1列をこれで置き換えて、

$$\begin{vmatrix}4&-1&2\\2&2&-1&\\2&3&-5\end{vmatrix}=-40+12+2-(8-12+10)=-26-6=-32$$

次に、\(|A|\) の第2列を定数項ベクトル \(\boldsymbol{b}\) で置き換えた行列式を計算するぞ。

$$\begin{vmatrix}1&4&2\\-1&2&-1&\\-2&2&-5\end{vmatrix}=-10-4+8-(-8-2+20)=-6-10=-16$$

次に、\(|A|\) の第3列を定数項ベクトル \(\boldsymbol{b}\) で置き換えた行列式を計算するぞ。

$$\begin{vmatrix}1&-1&4\\-1&2&2&\\-2&3&2\end{vmatrix}=4-12+4-(-16+6+2)=4$$

最後に、これらを先に求めておいた行列式の値で割れば、解の成分を順に、\(x_1、x_2、x_3\) を得るのだ。すなわち、

$$\boldsymbol{x}=\left( \begin{array}{c}16\\8\\-2 \end{array} \right)$$

これが実際に与式の解になっていることの検算はおまかせしよう。

どうだろう?実際に使ってみると、なかなか便利な公式だということに気づいたのではないだろうか?

ただ実際問題として、高々3×3行列までしか使えないかも・・・と思うのは私だけであろうか?

大事!

クラメルの公式:

$$A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b} の解 \boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x_1\\ \vdots\\ x_i\\ \vdots\\ x_n \\ \end{pmatrix} は、$$ $$x_i=\frac{det(\boldsymbol{a_1} \cdots \overset{\text{i}}{\boldsymbol{b}} \cdots \boldsymbol{a_n})}{detA}$$で与えられる


問題.9 解答

今回の最後の問題は、行列式の値を『余因子展開』を用いて解く問題だ。余因子展開は、教科書などに書かれている内容を見ると、なにやらごちゃごちゃしてとても難解そうに思える。こんなときこそ、実際に問題を解きながら計算過程をなぞっていくことによって、そこまで難しいことがことが書かれていないことに気づくのだ。数学は問題を解きながら学ぶのだ!

さて、与えられた行列式をもう一度書くと、\begin{vmatrix}1&5&0&-1\\2&-1&2&1\\-1&0&3&0\\0&1&5&1 \end{vmatrix} である。

まず最初に、この行列式はまったくきれいな形をしていないので、すでに紹介した公式は使えない。

こんな場合、次に考えるのが『余因子展開』による方法だ!

今回、与えられた行列式を見ると、これはまさに余因子展開の餌食ではないか!と気づくのである。

それは、行列の成分に0が比較的多く見受けられるからだ。

これが、余因子展開の発動条件である。つまり、『便利な公式が使えず、行列の成分に0が比較的多い場合、余因子展開の一手』というわけだ。

比較的0が多いというのは、もちろん1個でもいいが、多ければ多いほど良いぞ!今回は、ぱっと見て4個もあるから十分だ!

そして、次にどの列、あるいは行に0が一番多くあるかを見極めるのだ。それはもちろん第3行の0が2個である!したがって、我々は第3行に関して余因子展開を発動させることになるのだ。

余因子展開のやり方を説明しよう。最初に言っておくけどとても簡単だ!

まず、第3行の成分を左から順に選んでいく。-1、0、3、0 の順だ。

始めに-1を選んだとき、その位置はもちろん『3行1列』だろう。この情報がとても重要な役割を演じるのだ。3行1列ということが分かったら、次に第3行と第1列を消去した行列式を考えるのだ。

私はいつも-1を十字架の中心として、十字を描き(実際には書かないが)、十字が通らない成分を素早く見つけているぞ!

すると、そのときの行列式は、\begin{vmatrix}5&0&-1\\-1&2&1\\1&5&1 \end{vmatrix} となる。これを、3行1列に関する余因子という。3×3になったので、あとは『サラスの方法』で求められる。

さて、ここで一つ注意がある。それは、余因子の符号についてである。

余因子展開をするとき、よくミスをするのが符号についてだ。しかし、符号についてもとても簡単なルールになっているぞ。

先ほど、『3行1列』という情報を得ただろう。このとき、3行1列に関する余因子の符号は、\((-1)^{3+1}=1\) となるのだ。もう分かったであろう。つまり、行と列を足した数を-1の指数とすればよいだけだ!

ここまでできたら、最初の3行1列に関する展開は、次のようにできる。つまり、$$(-1)^{3+1}\cdot(-1)\cdot\begin{vmatrix}5&0&-1\\-1&2&1\\1&5&1 \end{vmatrix}$$である。つまり、3行1列成分に、3行1列成分を消去した行列式をかけて、3行1列成分から計算した符号をつけてやればよいということだ。

これが、余因子展開のすべてだ。

ここで、鋭い人は気づいたと思う。今回、余因子展開するにあたってなぜ0が一番多い『第3行』を選んだのかというと、余因子展開するとき、成分が0である部分に関する余因子はもちろん0になるのだから、その部分については無視してかまわないからだ!

したがって、残るは3行3列の成分3に関する余因子を上と同様に計算すれば終わりということになるのだ。

上と同様に、まず3行と3列を消去した行列式はを求めると、\begin{vmatrix}1&5&-1\\2&-1&1\\0&1&1 \end{vmatrix} である。つぎに符号を求めると、\((-1)^{3+3}=1\) である。したがって、3行3列の成分に関する展開は、$$(-1)^{3+3}\cdot3\cdot\begin{vmatrix}1&5&-1\\2&-1&1\\0&1&1 \end{vmatrix}$$となる。

以上をまとめて、数式のみで書くと次のようになる。

$$\begin{vmatrix}1&5&0&-1\\2&-1&2&1\\-1&0&3&0\\0&1&5&1 \end{vmatrix}= (-1)^{3+1}\cdot(-1)\cdot\begin{vmatrix}5&0&-1\\-1&2&1\\1&5&1 \end{vmatrix}+(-1)^{3+3}\cdot3\cdot\begin{vmatrix}1&5&-1\\2&-1&1\\0&1&1 \end{vmatrix}$$

$$=-\{10+5-(-2+25)\}+3\{-1-2-(1+10)\}=8-42=-34$$

ということで答えは、-34だ。

いかがだっただろうか?余因子展開は確かに慣れが必要だが、何問か解けばすぐに慣れてしまうぞ!

とにかく手を動かしてくれ。

今回は計算のボリュームが多くて大変だったと思うが、まずは理解することが大切だ。そして理解したら練習をするだけだ。

無理なくコツコツと頑張ってくれ、ではまた!


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