はじめに
第二回と第三回で、『一の型』\(y’+ a(x)y=0\) の一般解と初期値問題について学んだ。
今回からいよいよ一般の1階線形微分方程式$$y’+ a(x)y=b(x)$$の解法に入ろう。これを『二の型』と呼ぼう。
ここで、\(b(x)\) は \(b(x) \equiv 0\) でない連続関数とする。
はじめに言っておきたいことは今回の内容はかなりヘビーだということだ。しかし、ヘビーであることと比例して感動も大きいので期待して進んでほしい。
『一の型』\(y’+ a(x)y=0\) との違い
まず、今回の解くべき方程式 \(y’+ a(x)y=b(x)\) に、\(y’+ a(x)y=0\) の解法を適用してみよう。もし、復習したいなら第二回をざっと見返してほしい。→第二回はこちら
さて、その解法によると、まず両辺を \(y\) で割るのであった:
両辺を \(y\) で割ると、$$\frac{y’}{y}+a(x)=\frac{b(x)}{y}$$公式:\(\frac{d}{dx}log|y|=\frac{y’}{y}\) を用いて、$$\frac{d}{dx}log|y|+a(x)=\frac{b(x)}{y}$$\(y’+ a(x)y=0\) の場合はこの時点で最終目標の \(\frac{d}{dx}(yの式)=f(x)\) を達成していたが、これは、最終目標の形になっていないのである。(右辺に、\(y\) の式 \(\frac{b(x)}{y}\) があるから)
つまり、\(y’+ a(x)y=0\) に対する『一の型の解法』では倒せないのである。
という訳で新しい『型』に対する解法の習得が必要となる。
『二の型』への準備
まず、『二の型』を習得するためには、『一の型』の習得が必須である。このことを詳しく見ていこう!
既に見たように、\(y’+ a(x)y=0\) の解法では最終目標である \(\frac{d}{dx}(yの式)=f(x)\) の形にはできなかった。そこで、この式を少し変更してあげるのである。具体的には、$$\frac{d}{dx}(\mu(x) y)=f(x)$$の形を最終目標とするのである。これを『新しい最終目標』と呼ぼう。
左辺のカッコの中が、(\(y\)の式)から、\(\mu(x) y\) に変わったのである。ここで \(\mu(x)\) は \(x\) の何らかの連続関数である。
もしこの新しい最終目標が達成されたならば、\(\frac{d}{dx}(\mu(x) y)=f(x)\) の両辺を \(x\) で積分して、\(\mu(x) y=\int f(x) dx+C\) \((Cは定数)\)、よって、$$y=\frac{1}{\mu(x)}(\int f(x) dx+C)$$となって無事に \(y\) を求めることができる。
新しい目標への道
さて、そうなると \(y’+ a(x)y=b(x)\) を新しい最終目標である\(\frac{d}{dx}(\mu(x) y)=f(x)\) の形にいかにしてもっていくかが問題となる。
ここから先の計算は、おそらく先人の天才たちが考えたものだろう。あまりの見事さに私は感動してしまった。じっくりと聞いてほしい。要点は、両辺に \(\mu(x)\) をかけたとき$$\mu(x)y’+\mu(x)a(x)y=\mu(x)b(x)$$となるが、この左辺が$$\frac{d}{dx}(\mu(x)y)$$に変形できるような関数 \(\mu(x)\) を求めるということである。
鍵となるのは、『積の微分公式』である。
積の微分公式より、$$\frac{d}{dx}(\mu(x) y)=\mu'(x)y+\mu(x)y’・・・①$$他方、解くべき方程式の両辺に \(\mu(x)\) をかけると $$\mu(x)y’+\mu(x)a(x)y=\mu(x)b(x)・・・②$$となるが、この左辺が①の右辺に等しくなることは、$$\mu'(x)=a(x)\mu(x)$$が成り立つことと同値である。つまり、$$\mu’-a(x)\mu=0$$を満たす\(\mu\) を求めることができれば、それを与式の両辺にかけることにより、新しい最終目標が達成されるということである。
『一の型』の出番
皆さんお気づきになっただろうか?上で得た \(\mu’-a(x)\mu=0\) は正に『一の型』である!
この一般解は、$$\mu=Cexp(\int a(x) dx)$$であるが、今は \(\mu(x)\) として無限個は必要なく、一個だけで十分である。よって、特に \(C=1\) として$$\mu=exp(\int a(x) dx)$$でよい。
こうして得られた \(\mu(x)\) に対して、②の左辺は、\(\frac{d}{dx}(\mu(x)y)=\mu(x)b(x)\) 変形できて、新しい最終目標を達成できるわけである。
この続きは既に見たように、両辺を \(x\) で積分して、$$\mu(x)y=\int \mu(x)b(x) dx+C (Cは定数)、$$よって、$$y=\frac{1}{\mu(x)}(\int \mu(x)b(x) dx+C)、$$ただし、$$\mu(x)=exp(\int a(x) dx)$$である。
『二の型』
以上により、『二の型』\(y’+ a(x)y=b(x)\) の一般解は、$$y=\frac{1}{\mu(x)}(\int \mu(x)b(x) dx+C) ただし、\mu(x)=exp(\int a(x) dx)$$となることが分かった。
今回は、新たな型『二の型』の一般解を求めた。振り返ると、『二の型』の一般解を得るためには、新しい関数 \(\mu(x)\) を導入して、新しい最終目標である$$\frac{d}{dx}(\mu(x)y)=f(x)$$の形に変形しなければならなかった。
そのための突破口となったのが、『一の型』であった。まとめると、
実際の計算
上で得た『二の型』についてだが、記憶できる人はそれでいいのだが、私も含め暗記が嫌いな人は、次のようなステップを踏んで解くと良いだろう。
その方が、このすばらしい解法の内容を理解できるし、後々同じような方法を用いる場面があるのでそのとき大きな助けとなるからである。
ステップ1:積分因子 \(\mu(x)=exp(\int a(x) dx)\) を求める。
ステップ2:与式の両辺に積分因子をかけて、与式の左辺を \(\frac{d}{dx}(\mu(x)y)\) の形のする。
ステップ3:両辺を \(x\) で積分することによって、一般解を求める。
では、このステップを踏まえて練習問題をやってみよう!
練習問題
第四回の最後に、新しく習得した『二の型』の3ステップを用いて次の問題たちを倒してみよう。
(1)\(y’+y=1\)
よって、両辺に \(e^{x}\) をかけて、$$e^{x}y’+e^{x}y=e^{x}$$$$\Leftrightarrow \frac{d}{dx}(e^{x}y)=e^{x}$$両辺を \(x\) で積分して、$$e^{x}y= e^{x}+C (Cは定数)$$よって求める解は、$$y=1+Ce^{x} (Cは定数)$$
(2)\(y’-2xy=x\)
よって、両辺に \(e^{-x^{2}}\) をかけて、$$e^{-x^{2}}y’-2xe^{-x^{2}}y=xe^{-x^{2}}$$$$\Leftrightarrow \frac{d}{dx}(e^{-x^{2}}y)=xe^{-x^{2}}$$両辺を \(x\) で積分して、$$e^{-x^{2}}y=\int xe^{-x^{2}} dx+C (Cは定数)$$$$=-\frac{1}{2}e^{-x^{2}}+C (Cは定数)$$よって求める解は、$$y=-\frac{1}{2}+Ce^{x^{2}} (Cは定数)$$
(3)\(y’+y=\frac{1}{1+x^{2}}\)
よって、両辺に \(e^{x}\) をかけて、$$e^{x}y’+e^{x}y=\frac{e^{x}}{1+x^{2}}$$$$\Leftrightarrow \frac{d}{dx}(e^{x}y)=\frac{e^{x}}{1+x^{2}}$$両辺を \(x\) で積分して、$$e^{x}y=\int \frac{e^{x}}{1+x^{2}} dx+C (Cは定数)$$よって求める解は、$$y=e^{-x}(\int \frac{e^{x}}{1+x^{2}} dx+C) (Cは定数)$$
さて、いかがだっただろうか?
今回はなかなかヘビーだったと思うが、上の練習問題をやってみると思ったよりいけると思わないだろうか?そして、解ける喜びを感じなかっただろうか?その喜びを原動力にして今後も頑張ってほしい!
まだまだ、道は長いがこの調子で頑張って『型』を極めていこう!
では、またディープな数学の世界で会おう!
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