1階微分方程式 完全攻略 ~第十回~

1階微分方程式 完全攻略

初めに

前回、『完全形の微分方程式』の解法を学んだ。今回は、与えられた微分方程式:$$M(x , y)+N(x , y)y’=0・・・①$$が完全形でない場合を考える。


 

『積分因子』再び 

この場合、第4回で『二の型』:\(y’+a(x)y=b(x)\) の一般解を求めるときに用いた『技』を使う。

その技とは、『積分因子』:\(\mu(x)=exp(\int a(x)dx)\) を両辺にかけて、最終目標を達成したというものであった。

とても素晴らしい方法であったが、今回 ① に対して、同様の方法を適用する。

つまり、両辺に今回は2変数関数である \(\mu(x , y)\) をかけて、$$\mu(x , y)M(x , y)+\mu(x , y)N(x , y)=0・・・②$$を完全形にすることはできないか? と考えるのである。

この方程式が完全形となるためには、定義より、$$\frac{\partial}{\partial y}(\mu M)=\frac{\partial}{\partial x}(\mu N)$$が成り立たなければならない。すなわち、積の微分公式より$$M\frac{\partial \mu}{\partial y}+\mu \frac{\partial M}{\partial y}=N\frac{\partial \mu}{\partial x}+\mu \frac{\partial N}{\partial x}・・・③$$

さて、③を満たすような \(\mu(x , y)\) を求めたいのだが、このままでは大変なので、いつものように問題を少し簡単化して考えてみよう。

完全形となるための必要十分条件

つまり、\(\mu(x , y)\) が \(x\) のみの関数であるとするのである。そうすると、③の左辺の第1項は、\(\frac{\partial \mu}{\partial y}=0\) より消えるので③は,

\begin{split}
\mu \frac{\partial M}{\partial y}=N\frac{\partial \mu}{\partial x}+\mu \frac{\partial N}{\partial x}\\
N\frac{\partial \mu}{\partial x}+\left( \frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y} \right)\mu&=0\\
\Leftrightarrow \mu’+\left( \frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N} \right)\mu&=0・・・④   となる。
\end{split}

よって、\(\mu(x , y)\) が \(x\) のみの関数であるとき、④を満たすような\(\mu(x)\) を求めればよいことになる。

『一の型』:\(y’+a(x)y=0\) を思い出すと、④が解けるためには、$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N}$$が \(x\) のみの関数でなければならず、もしそうなっているならば、④の解 \(\mu(x)\) は『一の型』の解法により、$$\mu(x)=exp(-\int \left( \frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N} \right))$$と求められる。(ただし、\(C=1\) とした。)

こうして得られた \(\mu\) を与式の両辺にかけることによって、②は完全形となるのである。

さて、何が何やらよくわからなかったと思う。伝えたかったことは、つまり、②が完全形となるためには$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N}$$が \(x\) のみの関数であることが必要だということだ。

逆に、$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N}$$が \(x\) のみの関数であるならば、\(\mu\) を、$$\mu(x)=exp(-\int \left( \frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N} \right))$$と定めることにより、\(\mu\) は \(x\) のみの関数となり、\(\mu\) は④を満たす。したがって、③も満たすので②は完全形となる。

同様のことは、\(\mu(x , y)\) が \(y\) のみの関数であるときもいえる。ほとんど同じ議論だが、もう一度やってみると、

\(\mu(x , y)\) が \(y\) のみの関数であるとすると、$$M\frac{\partial \mu}{\partial y}+\mu \frac{\partial M}{\partial y}=N\frac{\partial \mu}{\partial x}+\mu \frac{\partial N}{\partial x}・・・③$$の右辺の第1項は、\(\frac{\partial \mu}{\partial x}=0\) より消えるので③は,

\begin{split}
M\frac{\partial \mu}{\partial y}+\mu \frac{\partial M}{\partial y}=\mu \frac{\partial N}{\partial x}\\
M\frac{\partial \mu}{\partial y}+\left( \frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x} \right)\mu&=0\\
\Leftrightarrow \mu’+\left( \frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M} \right)\mu&=0・・・⑤   となる。
\end{split}

よって、\(\mu(x , y)\) が \(y\) のみの関数であるとき、⑤を満たすような \(\mu(y)\) を求めればよいことになる。

『一の型』:\(y’+a(x)y=0\) を思い出すと、⑤が解けるためには、$$\frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M}$$が \(y\) のみの関数でなければならず、もしそうなっているならば、④の解 \(\mu(y)\) は『一の型』の解法により、$$\mu(y)=exp(-\int \left( \frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M} \right))$$と求められる。(ただし、\(C=1\) とした。)

こうして得られた \(\mu\) を与式の両辺にかけることによって、②は完全形となるのである。

逆に、$$\frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M}$$が \(y\) のみの関数であるならば、②が完全形となることは、上で示したのと同様である。

したがって、$$\mu(x , y)M(x , y)+\mu(x , y)N(x , y)=0・・・②$$が完全形となるための必要十分条件は、$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N}$$が \(x\) のみの関数である、または、$$\frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M}$$が \(y\) のみの関数であることが分かった。


 

非常に多くの微分方程式を解くことができない理由

ここに来て、とても重要な事実を伝える時が来たようだ。

実は、『1階線形微分方程式』の世界においてさえ、非常に多くの微分方程式が、解くことができないのだ

その理由は、$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N} または、\frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M}$$はほとんどの場合、\(x\) と \(y\) の両方の関数となってしまうからである。

非常に特殊な場合のみ、これらは \(x\) のみ、または \(y\) のみの関数となるのである。

まとめ ~完全形でない1階微分方程式の解法~

今回の内容は色々とややこしかったが、ここでまとめてすっきりさせよう!

$$M(x , y)+N(x , y)y’=0$$が完全形でないとき、両辺に『積分因子』\(\mu\) をかけて完全形にするための必要十分条件は、

$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N} または、\frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M}$$がそれぞれ、\(x\) のみ、または \(y\) のみの関数となることである。このとき、$$\mu(x)=exp(-\int \left( \frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N} \right)) または、\mu(y)=exp(-\int \left( \frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M} \right))$$と定めて、与式の両辺にかけることによって完全形となるのだ。

そして、$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N} または、\frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M}$$がそれぞれ、\(x\) のみ、または \(y\) のみの関数となる、という包囲網をくぐり抜けた微分方程式は、残念ながら解けないのである。

解く手順 ~完全形でない1階微分方程式~

解法の手順を整理すると、もし与えられた微分方程式:$$M(x , y)+N(x , y)y’=0$$が完全形でないことが確認されたならば、$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N}$$が \(x\) のみの関数であることをチェックし、もし \(x\) のみの関数であるならば、積分因子:$$\mu(x)=exp(-\int \left( \frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N} \right))$$を与式の両辺にかけて完全形にする。

また、もしも$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N}$$が \(x\) のみの関数でなかったならば、今度は、$$\frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M}$$が \(y\) のみの関数であるかどうかをチェックし、もし \(y\) のみの関数であるならば、積分因子:$$\mu(y)=exp(-\int \left( \frac{\frac{\partial M}{\partial y}-\frac{\partial N}{\partial x}}{M} \right))$$を与式の両辺にかけて完全形にする。

さて、何はともあれ、次の練習問題を解いて解法の流れをつかもう!


 

練習問題 ~完全形でない1階微分方程式~

$$\frac{y^{2}}{2}+2ye^{x}+(y+e^{x})y’=0   の一般解を求めよ。$$

$$M(x , y)=\frac{y^{2}}{2}+2ye^{x} 、N(x , y)=y+e^{x}$$とおくと、$$\frac{\partial M}{\partial y}=y+2e^{x} 、\frac{\partial N}{\partial x}=e^{x}$$なので、与式は完全形でない。ここで、$$\frac{\frac{\partial N}{\partial x}-\frac{\partial M}{\partial y}}{N}=-\frac{y+e^{x}}{y+e^{x}}=-1$$と \(x\) のみの関数となる。(特に、定数関数は \(x\) のみの関数でもあるし、\(y\) のみの関数でもあるのだ)よって、積分因子として、\(\mu(x)=exp(\int 1dx)=e^{x}\) を与式の両辺にかけると、$$\frac{y^{2}}{2}e^{x}+2ye^{2x}+(ye^{x}+e^{2x})y’=0・・・(\star)$$は完全形となる。(定理1を実際に満たすことのチェックはお任せする)

したがって、定理1より、
\begin{cases}
\frac{\partial \phi}{\partial x}=\frac{y^{2}}{2}e^{x}+2ye^{2x}\\
\frac{\partial \phi}{\partial y}=ye^{x}+e^{2x} 
\end{cases}
を満たす関数 \(\phi(x , y)\) が存在する。これより、
\begin{cases}
\phi(x , y)=\frac{y^{2}}{2}e^{x}+ye^{2x}+p(y)・・・①\\
\phi(x , y)=\frac{y^{2}}{2}e^{x}+ye^{2x}+q(x)・・・②   を得る。
\end{cases}   
①、②の両辺を見比べて、\(p(y)=q(x)=0\) として、$$\phi(x , y)=\frac{y^{2}}{2}e^{x}+ye^{2x}$$ を得る。
したがって、\((\star)\) は$$\frac{d}{dx}(\frac{y^{2}}{2}e^{x}+ye^{2x})=0$$ と変形され、これより、一般解:$$\frac{y^{2}}{2}e^{x}+ye^{2x}=C (C は定数) を得る。$$

最後に

さて、いかがだっただろうか?

与式が完全形でないとき、解法の手順は複雑だ。しっかり記憶しておかなければならない式がいくつかあることが分かっただろう。

このような暗記すべき式は、問題を繰り返し解いていくうちにいつしか体が覚えてしまう。

ここまで、たどり着いた忍耐の持ち主なので何も心配してないが、ぜひたくさん書いて自身のものとしてほしい。

次回は、これまで習った解法をすべて含むような練習プリント的なものをやろうと思う。これまでの勉強の総まとめとして活用してもらえたらと思う。でき次第アップしよう。

ではまた、ディープな数学の世界で会おう!


 

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