1階微分方程式 完全攻略 ~第九回~

1階微分方程式 完全攻略

はじめに

前回、『完全形』の微分方程式がどういうものかを説明した。(定義の復習はこちら

今回は『完全形』の解き方を学んでいく。解き方は、これまでの方法とは異なるので心機一転臨んでほしい。


 

解き方 ~完全形~

$$M(x , y)+N(x , y)y’=0$$を『完全形』だとしよう。定義により、$$\frac{\partial M}{\partial y}=\frac{\partial N}{\partial x}$$を満たしている。前回紹介した『定理1』により(復習はこちら)$$\frac{\partial \phi}{\partial x}=M(x , y)・・・①  かつ  \frac{\partial \phi}{\partial y}=N(x , y)・・・②$$を満たす関数 \(\phi(x , y)\) が存在する。

①より、$$\phi(x , y)=\int M(x , y)dx+p(y) (p(y)は y の関数)$$②より、$$\phi(x , y)=\int N(x , y)dy+q(x) (q(x)は x の関数)$$と書ける。

問題は、\(p(y)\) あるいは \(q(x)\) をいかにして求めるかということである。

結論から言うと、多くの場合単なる観察によって、\(p(y)\) と \(q(x)\) が得られるのだ。

詳しくは次の例題を解いて説明しよう!

例題 ~完全形~

(例題)

$$3y+e^{x}+(3x+cosy)y’=0$$の一般解を求めよ。

解く前に!

まず与えられた微分方程式は \(y\) が単体で現れてない(\(cosy\) となっている)ので、線形でない、つまりこの時点で、『一の型』でも『二の型』でもないということがいえる。
では、『変数分離型』はどうかというと、\(y’\) について解いてみると、$$y’=\frac{-3y-e^{x}}{3x+cosy}$$となって、$$y’=\frac{g(x)}{f(y)}$$の形にはならない。(分母の \(3x+cosy\) は \(y\) の関数ではないし、分子の\(-3y-e^{x}\)も \(x\) の関数ではないから。)
したがって、与式はこれまでになかった『型』の微分方程式だということに気づく。
そこで、『完全形』の可能性を考えていくのである。
この確認作業は、慣れてくればすぐに(1分以内)にできるようになるので繰り返し練習し、『型の見極め』を極めてほしい。以上のことを踏まえて解答に入ろう。

(解答)

与えられた微分方程式は、
\begin{cases}
M(x , y)=3y+e^{x}\\
N(x , y)=3x+cosy   とおくと、
\end{cases}   
\begin{cases}
\frac{\partial M}{\partial y}=3\\
\frac{\partial N}{\partial x}=3   を満たすので『完全形』である。
\end{cases}   
したがって、定理1より、
\begin{cases}
\frac{\partial \phi}{\partial x}=M(x , y)\\
\frac{\partial \phi}{\partial y}=N(x , y)   つまり、
\end{cases}   
\begin{cases}
\frac{\partial \phi}{\partial x}=3y+e^{x}\\
\frac{\partial \phi}{\partial y}=3x+cosy   を満たす関数 \phi(x , y) が存在する。
\end{cases}   
第1式の両辺を \(x\) で積分し、かつ、第2式の両辺を \(y\) で積分すると、
\begin{cases}
\phi(x , y)=3xy+e^{x}+p(y)・・・①\\
\phi(x , y)=3xy+siny+q(x)・・・②   を得る。
\end{cases}   
①、②の両辺を見比べて
\begin{cases}
p(y)=siny\\
q(x)=e^{x}   が分かる。(単なる観察によって分かった!)
\end{cases} 
したがって、$$\phi(x , y)=e^{x}+3xy+siny$$となる。


これより、与式は、$$\frac{d}{dx}\phi(x , y)=0、$$つまり、$$\frac{d}{dx}(e^{x}+3xy+siny)=0$$と変形でき、両辺を \(x\) で積分することにより、$$e^{x}+3xy+siny=C (C は定数)$$を得る。


これを、\(y\) について解くことはできないのでこのままの表示(陰関数表示)で良い。

注意

上で求めた解:\(e^{x}+3xy+siny=C (C は定数)\) をみて、
「これで \(y\) を求めたことになるのか?」と疑問に思った人もいるだろう(私もその一人である)。

実は、ほとんどすべての完全形の微分方程式の解は、\(y=f(x)\) の形に解けないのである。
むしろ解ける方が稀なのである。

しかし、上の解のように『陰関数表示』として \(y\) が得られると、コンピュータを利用して、近似的に \(y\) の値を計算でき、必要ならばそのグラフも描けるのである。

したがって、応用上は解の形が、『陰関数表示』のままでも問題ないということだ。


 

まとめ

今回は完全形の微分方程式の解法を学んだ。まとめると、次のようなステップを踏み解くことになる。

解法のステップ

step.1)
与えられた微分方程式が『一の型』、『二の型』、『変数分離型』でないことを見極める。
これらいずれかの型に属するときは、その型の解法を適用して解く。

step.2)
\(M(x , y) , N(x , y)\) を見極め、定理1の条件:$$\frac{\partial M}{\partial y}=\frac{\partial N}{\partial x}$$を満たすかどうかチェックする。

step.3)
『完全形』であることが確認されたら、
\begin{cases}
\frac{\partial \phi}{\partial x}=M(x , y)\\
\frac{\partial \phi}{\partial y}=N(x , y)
\end{cases}
とおいて、両辺を第1式は \(x\) 、第2式は \(y\) で積分して、観察によって\(\phi(x , y)\) を決定する。

step.4)
与式は、step.3)で求めた \(\phi(x , y)\) に対して、$$\frac{d}{dx}\phi(x , y)=0$$と変形されるので$$\phi(x , y)=C (C は定数)$$として解を得る。

練習問題 ~完全形~

今回学んだ解法を用いて、次の練習問題たちを倒してみよう!
なお、今回の練習問題では、一般解ではなく、初期値問題を取り扱う。というのは、上で説明した方法で一般解を求めたら、初期値問題は単純な代入作業で解けてしまうので、改めて説明する必要はないからだ。

(1)$$3x^{2}y+8xy^{2}+(x^{3}+8x^{2}y+12y^{2})y’=0、y(0)=1$$の解を求めよ。

与えられた微分方程式は、
\begin{cases}
M(x , y)=3x^{2}y+8xy^{2}\\
N(x , y)=x^{3}+8x^{2}y+12y^{2}   とおくと、
\end{cases}   
\begin{cases}
\frac{\partial M}{\partial y}=3x^{2}+16xy\\
\frac{\partial N}{\partial x}=3x^{2}+16xy   を満たすので『完全形』である。
\end{cases}
したがって、定理1より、
\begin{cases}
\frac{\partial \phi}{\partial x}=M(x , y)\\
\frac{\partial \phi}{\partial y}=N(x , y)   つまり、
\end{cases}   
\begin{cases}
\frac{\partial \phi}{\partial x}=3x^{2}y+8xy^{2}\\
\frac{\partial \phi}{\partial y}=x^{3}+8x^{2}y+12y^{2}   を満たす関数 \phi(x , y) が存在する。
\end{cases} 
第1式の両辺を \(x\) で積分し、かつ、第2式の両辺を \(y\) で積分すると、
\begin{cases}
\phi(x , y)=x^{3}y+4x^{2}y^{2}+p(y)・・・①\\
\phi(x , y)=x^{3}y+4x^{2}y^{2}+4y^{3}+q(x)・・・②   を得る。
\end{cases}   
①、②の両辺を見比べて
\begin{cases}
p(y)=4y^{3}\\
q(x)=0   が分かる。(単なる観察によって分かった!)
\end{cases} 
したがって、$$\phi(x , y)=x^{3}y+4x^{2}y^{2}+4y^{3}$$となる。
これより、与式は、$$\frac{d}{dx}\phi(x , y)=0、$$つまり、$$\frac{d}{dx}(x^{3}y+4x^{2}y^{2}+4y^{3})=0$$と変形でき、両辺を \(x\) で積分することにより、$$x^{3}y+4x^{2}y^{2}+4y^{3}=C (C は定数)$$として解を得る。(陰関数表示)

これで、与式の一般解は得られた。
これに、初期条件である、\(x=0、y=1\) を代入して、\(C=4\) したがって、求める解は、$$x^{3}y+4x^{2}y^{2}+4y^{3}=4$$となる。

(2)$$\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+2e^{2x}y+(e^{x}y+e^{2x})y’=0、y(0)=2$$の解を求めよ。

与えられた微分方程式は、
\begin{cases}
M(x , y)=\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+2e^{2x}y\\
N(x , y)=e^{x}y+e^{2x}   とおくと、
\end{cases}   
\begin{cases}
\frac{\partial M}{\partial y}=e^{x}y+2e^{2x}\\
\frac{\partial N}{\partial x}=e^{x}y+2e^{2x}   を満たすので『完全形』である。
\end{cases}
したがって、定理1より、
\begin{cases}
\frac{\partial \phi}{\partial x}=M(x , y)\\
\frac{\partial \phi}{\partial y}=N(x , y)   つまり、
\end{cases}   
\begin{cases}
\frac{\partial \phi}{\partial x}=\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+2e^{2x}y\\
\frac{\partial \phi}{\partial y}=e^{x}y+e^{2x}   を満たす関数 \phi(x , y) が存在する。
\end{cases} 
第1式の両辺を \(x\) で積分し、かつ、第2式の両辺を \(y\) で積分すると、
\begin{cases}
\phi(x , y)=\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+e^{2x}y+p(y)・・・①\\
\phi(x , y)=\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+e^{2x}y+q(y)・・・②   を得る。
\end{cases}   
①、②の両辺を見比べて、\(p(y)=q(x)=0\) でよい。
 
したがって、$$\phi(x , y)=\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+e^{2x}y$$となる。
これより、与式は、$$\frac{d}{dx}\phi(x , y)=0、$$つまり、$$\frac{d}{dx}(\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+e^{2x}y)=0$$と変形でき、両辺を \(x\) で積分することにより、$$\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+e^{2x}y=C (C は定数)$$として解を得る。(陰関数表示)

これで、与式の一般解は得られた。
これに、初期条件である、\(x=0、y=2\) を代入して、\(C=4\) したがって、求める解は、$$\frac{1}{2}e^{x}y^{2}+e^{2x}y=4$$となる。
 

 

最後に 

さて、いかがだっただろうか?

とても難解に思われた完全形の解法も、具体例を実際に解くことによって、決して無理なものではないことが分かると思う。

これで我々は、大きく分けて4つの『型』の解法を学んだ。それらは、
『一の型』、『二の型』、『変数分離型』、『完全形』である。

このたった、4つの解法をマスターするだけで、もうかなりの数の『1階微分方程式』を解けるようになったのである。

どうだろう? 4つの型を学んだ今、もっと問題を解きたい衝動に駆られていないだろうか?
自分の力を試したくないだろうか?

後々、すべての解法を盛り込んだ演習プリントを作りたいと思うので、それまでは各ページの練習問題をしっかり練習してマスターしておくとよい。日々の鍛錬を怠らないように!

では、またディープな数学の世界で会おう!


 

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