線形代数 厳選良問 ~第二回~ 解答

線形代数学 厳選良問

第2回 解答

問題.4 解答

\( A=\begin{pmatrix}1&-1&-1\\2&-1&-2\\1&2&a\\ \end{pmatrix} \)、\(\boldsymbol{b}=\left( \begin{array}{c}1\\-1\\1 \end{array} \right)\) とおくと、与式は \(A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}\) と書ける。

ここで一般に、\(A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}\) が解を持つための必要十分条件は$$『rank(A)=rank(A \boldsymbol{b}) \cdots (\star) が成り立つ』$$ことである。

ここで、\((A \boldsymbol{b})\) のことを『拡大係数行列』といい、$$(A \boldsymbol{b})=\begin{pmatrix}1&-1&-1&1\\2&-1&-2&-1\\1&2&a&1 \end{pmatrix}$$である。(つまり、\(A\) の右側に \(\boldsymbol{b}\) を並べてつくった行列だ)

次に、『ランク(階数ともいう)』の求め方についてだが、ランクは『簡約化』という計算によって求めることができるのであった。実際にやってみよう。$$\begin{matrix}1&-1&-1&1\\2&-1&-2&-1\\1&2&a&1 \end{matrix}$$第1行に-2をかけて第2行に足し、同じく第1行に-1をかけて第3行に足すと、$$\begin{matrix}1&-1&-1&1\\0&1&0&-3\\0&3&a+1&0\end{matrix}$$第2行に-3をかけて、第3行に足して、$$\begin{matrix}1&-1&-1&1\\0&1&0&-3\\0&0&a+1&9\end{matrix}$$この続きは、\(a\) の値によってランクが変わってくる。実際に、\(a=-1\) のとき、$$\begin{matrix}1&-1&-1&1\\0&1&0&-3\\0&0&0&9\end{matrix}$$となって、$$rank(A)=2、rank(A \boldsymbol{b})=3$$がいえる。これは、\((\star)\) を満たさないので、この場合、与式の解は存在しない。

また、\(a \ne -1\) のとき、第3行に \(\frac{1}{a+1}\) をかけることによって$$\begin{matrix}1&-1&-1&1\\0&1&0&-3\\0&0&1&\frac{9}{a+1}\end{matrix}$$となって、$$rank(A)=3、rank(A \boldsymbol{b})=3$$がいえる。これは、\((\star)\) を満たすので、与式は(唯一の)解をもつ。
このように、与えられた連立方程式が解をもつかどうかの簡単な判定条件 \((\star)\) があるのだ。

大事!

与えられた連立方程式:\(A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{b}\) が解をもつかどうかの必要十分条件は、$$『rank(A)=rank(A \boldsymbol{b})』$$ である。


問題.5 解答

3×3行列の逆行列を求める問題だ。2×2行列の逆行列を求めるには、便利な公式があった。つまり、$$A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d \end{pmatrix} の逆行列は、A^{-1}=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix}d&-b\\-c&a \end{pmatrix} である。$$しかし、3×3行列の場合はこう簡単にはいかない。3×3行列の逆行列を求める方法は『基本変形による方法』と『余因子行列による方法』がある。余因子行列による方法は後の問題で取り扱うので、ここでは、基本変形による方法で解いてみよう!

基本変形による方法

はじめに、\(A\) の右側に単位行列を並べて、以下のように書くことからスタートするぞ。

$$\begin{matrix}1&0&2&\ &1&0&0\\0&3&0&\ &0&1&0\\4&0&5&\ &0&0&1\end{matrix}$$それから、\(A\) が単位行列になるまで、各行に基本変形を実行していくのである。実際にやってみよう。

まず、第1行に-4をかけて第3行に足すと、$$\begin{matrix}1&0&2&\ &1&0&0\\0&3&0&\ &0&1&0\\0&0&-3&\ &-4&0&1\end{matrix}$$次に、第2行に \(\frac{1}{3}\) をかけて、$$\begin{matrix}1&0&2&\ &1&0&0\\0&1&0&\ &0&\frac{1}{3}&0\\0&0&-3&\ &-4&0&1\end{matrix}$$次に、第3行に \(-\frac{1}{3}\) をかけて、$$\begin{matrix}1&0&2&\ &1&0&0\\0&1&0&\ &0&\frac{1}{3}&0\\0&0&1&\ &\frac{4}{3}&0&-\frac{1}{3}\end{matrix}$$次に、第3行に-2をかけて第1行に足すと、$$\begin{matrix}1&0&0&\ &-\frac{5}{3}&0&\frac{2}{3}\\0&1&0&\ &0&\frac{1}{3}&0\\0&0&1&\ &\frac{4}{3}&0&-\frac{1}{3}\end{matrix}$$これで左側の行列は単位行列になった。このとき、右側の行列は自動的に与えられた行列の逆行列になっているのだ!つまり、$$A^{-1}=\begin{pmatrix}-\frac{5}{3}&0&\frac{2}{3}\\0&\frac{1}{3}&0\\ \frac{4}{3}&0&-\frac{1}{3}\end{pmatrix}$$本当に逆行列になっているかどうか検算してみよう

$$AA^{-1}=\begin{pmatrix}1&0&2\\0&3&0\\4&0&5 \end{pmatrix}\begin{pmatrix}-\frac{5}{3}&0&\frac{2}{3}\\0&\frac{1}{3}&0\\ \frac{4}{3}&0&-\frac{1}{3}\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&1\end{pmatrix}$$

となって、確かに \(A\) の逆行列になっていることが確認できる。

大事!

3×3行列の逆行列を求めるには、『基本変形を利用する方法』がある。


問題.6 解答

まず次の二つの事実を抑えておこう!

1.任意の置換は巡回置換の積として書ける

2.任意の巡回置換は互換の積として書ける

置換に関する問題はこのたった二つの知識のみで大体の問題が解けてしまうぞ。

まず与えられた置換:\(\begin{pmatrix}1&2&3&4&5&6\\3&5&1&6&4&2 \end{pmatrix}\) を巡回置換の積として表してみよう。やり方はとても簡単で、まず上の段の1からスタートする。1の下の数は3なので1は3に移り、次に上の段の3を見ると下の数は1となっている。つまり、1は3に移り、3は1に移ることが言えるのだ。これを巡回置換で表すと、\((1 3)\) と書ける。(\((3 1)\) でも良い)このような2つの数で表される置換のことを互換というのであった。

次に、上の段の2からスタートしよう。2の下の数は5であり、次に上の段の5を見ると下の数は4であり、続けて上の段の4を見ると下の数は6となっていて、最後に上の段の6を見ると下の数は2となっている。つまり、2は5に移り、5は4に移り、4は6に移り、6は2に移ることが分かったのである。これを巡回置換で表すと、\((2 5 4 6)\) と書ける。

以上により、与えられた置換:\(\begin{pmatrix}1&2&3&4&5&6\\3&5&1&6&4&2 \end{pmatrix}\) は、巡回置換の積:\((1 3)(2 5 4 6)\) と表せるのだ。この計算は慣れてくると『秒で』できるようになるぞ。

つぎに、巡回置換の積を『互換の積』として表してみよう。これもやり方はとても簡単で、次の公式があるからこれを丸っと覚えてしまうのが早いぞ! 

例えば『長さ4』の巡回置換の場合、$$(a b c d)=(a d)(a c)(a b)$$『長さ3』の巡回置換の場合、$$(a b c)=(a c)(a b)$$という具合だ。つまり、一番左の \(a\) はずっと左のまま、一番右の数から順に互換のペアを作っていくということだ。これも慣れしまえば『秒で』できてしまう計算だぞ。

さて、これで問題の解答を完成させることができる。与えられた置換は、巡回置換の積:\((1 3)(2 5 4 6)\) と表せた。一つ目の因子はすでに互換になっているので、二番目の因子を互換の積に直せば終わりだ。これは公式によると、$$(2 5 4 6)=(2 6)(2 4)(2 5)$$と書ける。したがって、答えは、$$\begin{pmatrix}1&2&3&4&5&6\\3&5&1&6&4&2 \end{pmatrix}=(1 3)(2 6)(2 4)(2 5)$$互換の個数は4つの偶数個であるから、与えられた置換は偶置換である。

大事!

1.任意の置換は巡回置換の積として書ける

2.任意の巡回置換は互換の積として書ける

置換を互換の積として表したとき、互換の個数が偶数個のとき偶置換といい、奇数個のとき奇置換という。



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