線形代数 厳選良問 ~第八回~ 解答

線形代数学 厳選良問

第八回 解答

問題.22 解答

問題.22は、行列で定まる線形写像の固有値固有空間を求める問題である。

なにはともあれ、固有値と固有空間の定義を知ってないとどうにもならないので、まずはそれらを確認しよう。

固有値と固有空間の定義

\(V : ベクトル空間\)、
\(f : V \longrightarrow V\) を線形写像とする。

\(\lambda \in \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C})\) と、\(\boldsymbol{v} (\ne \boldsymbol{0})\in V\) に対し、\(f(\boldsymbol{v})=\lambda \boldsymbol{v}\)が成り立つとき、
\(\lambda\) を \(f\) の固有値、\(\boldsymbol{v}\) を \(\lambda\) に属する固有ベクトルという。
零ベクトルは固有ベクトルとはならないことに注意。

零ベクトルと、\(\lambda\) に属する固有ベクトル全体を合わせた集合を、\(\lambda\) に対する \(f\) の固有空間といい、\(W(\lambda , f)\) で表す。

すなわち、\(W(\lambda , f)=\{\boldsymbol{v} \in V\ |\ f(\boldsymbol{v})=\lambda\boldsymbol{v}\}.\)

固有空間 \(W(\lambda , f)\) は \(V\) の部分空間になることが容易に示される。
(\(\boldsymbol{v}、\boldsymbol{w} \in W(\lambda , f)\) に対し \(\boldsymbol{v}+\boldsymbol{w}\ \in\ W(\lambda , f)\) と、\(a\ \in \mathbb{R}\ (or\ \ \mathbb{C})\) に対して \(a\boldsymbol{v}\ \in\ V\)を示す。)

以上が、固有値と固有空間の定義である。

これまでやってきたように、上のような一般的な定義は、実際の問題を当てはめることによって理解していこう!


問題の解答

さて、本問の場合、\(V=\mathbb{R}^{3}\) で、線形写像は \(3 \times 3\) 行列 \(A=\begin{pmatrix}1&3&0\\0&-2&0\\-3&0&2\end{pmatrix}\) によって定まる線形写像 \(f_A : \mathbb{R}^{3} \longrightarrow \mathbb{R}^{3}\) である。

固有値を求めるためには、方程式 \(f_A(\boldsymbol{x})=\lambda\boldsymbol{x}\) すなわち、\(A\boldsymbol{x}=\lambda\boldsymbol{x}\) という方程式を満たす \(\lambda\) を求めなくてはならない。そのために解きやすい形に少し変形しよう。左辺を右辺に移行して、\((\lambda E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \cdots ①\) となる。

ここで、\(\lambda E-A\) は \(3 \times 3\) 行列であるが、この行列式の値が \(det(\lambda E-A) \ne 0\) の場合 \(\lambda E-A\) の逆行列 \((\lambda E-A)^{-1}\) が存在するので、①の両辺の左からこの逆行列をかけると、\(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) を得る。

固有ベクトルは \(\boldsymbol{x} \ne \boldsymbol{0}\) であったので、この場合、固有ベクトル、したがってまた、固有値も存在しないということになってしまう。この場合、固有空間は零ベクトルだけで、\(W(\lambda , f)=\{\boldsymbol{0}\}\) となる。

したがって、固有値を求めるためには、まずもって \(det(\lambda E-A) = 0 \cdots ②\) を解くことが必要となってくる。このとき、①は零ベクトルでない解 \(\boldsymbol{x}\) 持つので②の解が固有値ということになるのだ。

②は、\(det(\lambda E-A)=\begin{vmatrix}\lambda-1&-3&0\\0&\lambda+2&0\\3&0&\lambda-2\end{vmatrix}\)

$$=(\lambda-1)(\lambda+2)(\lambda-2)\ (=\lambda^{3}-\lambda^{2}-4\lambda+4)$$より、

$$ det(\lambda E-A) = 0 \Longleftrightarrow (\lambda-1)(\lambda+2)(\lambda-2)=0$$を解くことになる。

この固有値を求めるための方程式:\(det(\lambda E-A) = 0\) を固有方程式という。

これを解くと前半の答えである固有値 \(\lambda=1、\pm 2\) を得る。



次に、各固有値に対する固有空間の基底を求める。

\(\lambda=1\) のとき

①の \((\lambda E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) に \(\lambda=1\) を代入して、

\((E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \Longleftrightarrow \begin{pmatrix}0&-3&0\\0&3&0\\3&0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}、\)

ただし、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}\) とおいた。これより、\(\begin{cases}\ -3y&=0\\\ \ \ \ 3y&=0\\3x-z&=0\end{cases} \Longleftrightarrow \begin{cases}y=0\\z=3x\end{cases}、\)

よって、\(x=c\ (c\ \in\ \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C}))\) とおくと、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\0\\3\end{pmatrix}\) となる。

したがって、\(\lambda=1\) に対する \(f_A\) の固有空間は \(W(1 , f_A)=\{c\begin{pmatrix}1\\0\\3\end{pmatrix}\ |\ c \in \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C})\}\) と書けて、固有空間の基底として \(\left\{\begin{pmatrix}1\\0\\3\end{pmatrix}\right\}\) がとれる。

(固有空間は1次元ということになる!)

\(\lambda=2\) のとき

①の \((\lambda E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) に \(\lambda=2\) を代入して、

\((2E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \Longleftrightarrow \begin{pmatrix}1&-3&0\\0&4&0\\3&0&0\end{pmatrix}\!\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}、\)

ただし、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}\) とおいた。これより、\(\begin{cases}x-3y=0\\4y=0\\3x=0\end{cases} \Longleftrightarrow x=y=0、zは任意、\)

よって、\(z=c\ (c\ \in\ \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C}))\) とおくと、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\) となる。

したがって、\(\lambda=2\) に対する \(f_A\) の固有空間は \(W(2 , f_A)=\{c\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\ |\ c \in \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C})\}\) と書けて、固有空間の基底として \(\left\{\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\right\}\) がとれる。

(固有空間は1次元ということになる!)

\(\lambda=-2\) のとき

①の \((\lambda E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) に \(\lambda=-2\) を代入して、

\((-2E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \Longleftrightarrow \begin{pmatrix}-3&-3&0\\0&0&0\\3&0&-4\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}、\)

ただし、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}\) とおいた。これより、\(\begin{cases}-3x-3y=0\\3x-4z=0\end{cases} \Longleftrightarrow \begin{cases}x=-y\\3x-4z=0\end{cases}\)、

よって、\(x=c\ (c\ \in\ \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C}))\) とおくと、\(y=-c、z=\frac{3}{4}c\) となるので、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\-1\\\frac{3}{4}\end{pmatrix}=c’\begin{pmatrix}4\\-4\\3\end{pmatrix}\) となる。

したがって、\(\lambda=-2\) に対する \(f_A\) の固有空間は 、\(W(-2 , f_A)=\{ c\begin{pmatrix}4\\-4\\3\end{pmatrix}\ |\ c \in \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C})\}\) と書けて、固有空間の基底として \(\left\{\begin{pmatrix}4\\-4\\3\end{pmatrix}\right\}\) がとれる。

(固有空間は1次元ということになる!)

大事!

行列で定まる線形写像の固有値、固有空間を求める場合はまずもって、固有方程式: \(det(\lambda E-A) = 0 \) を解け。



問題.23 解答

本問で与えられた写像は、問題.22のように行列によって定義されていない。いま一度書くと、$$f(\boldsymbol{e}_1)=\begin{pmatrix}2\\-1\end{pmatrix}、f(\boldsymbol{e}_1)=\begin{pmatrix}-1\\2\end{pmatrix}$$によって定められている。

しかし、上で見たように『固有方程式』などは行列式を用いて定義されていた。今回は一体どうするのだろう? 

鋭い人はもう気づいたろう? そう、表現行列を用いるのだ! 
つまり、行列によって定義されてない線形写像の固有値や固有空間などを考えるときは、その写像の表現行列を求め、その行列に対しての固有値や固有空間などを問題.22のように求めればよいのだ!

では、まず表現行列 \(A\) を求めよう。定義から、

$$(f(\boldsymbol{e}_1) , f(\boldsymbol{e}_2))=(\boldsymbol{e}_1 , \boldsymbol{e}_2)A=EA=A$$より、

$$A=\begin{pmatrix}2&-1\\-1&2\end{pmatrix}$$となる。あとは、前問のようにやっていく。

固有方程式:\(det(\lambda E-A) = 0\) を解くと、

\begin{split}
det(\lambda E-A)=0
\Longleftrightarrow \begin{vmatrix}\lambda-2&1\\1&\lambda-2\end{vmatrix}=0
\Longleftrightarrow (\lambda-2)^{2}-1=0
\Longleftrightarrow \lambda=1、3
\end{split}

\(\lambda=1\) のとき

\((\lambda E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) に \(\lambda=1\) を代入して、

\((E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \Longleftrightarrow \begin{pmatrix}-1&1\\1&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\end{pmatrix}、\)

ただし、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}\) とおいた。これより、\(\begin{cases}-x+y=0\\x-y=0\end{cases} \Longleftrightarrow x=y\)、

よって、\(x=c\ (c\ \in\ \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C}))\) とおくと、\(y=c\) となるので、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}\) となる。

したがって、\(\lambda=1\) に対する \(f_A\) の固有空間は 、\(W(1 , f_A)=\{ c\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}\ |\ c \in \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C})\}\) と書けて、固有空間の基底として \(\left\{\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix}\right\}\) がとれる。

(固有空間は1次元ということになる!)

\(\lambda=3\) のとき

\((\lambda E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) に \(\lambda=3\) を代入して、

\((3E-A)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \Longleftrightarrow \begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\end{pmatrix}、\)

ただし、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}\) とおいた。これより、\(\begin{cases}x+y=0\\x+y=0\end{cases} \Longleftrightarrow x=-y\)、

よって、\(x=c\ (c\ \in\ \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C}))\) とおくと、\(y=-c\) となるので、\(\boldsymbol{x}=\begin{pmatrix}x\\y\end{pmatrix}=c\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}\) となる。

したがって、\(\lambda=3\) に対する \(f_A\) の固有空間は 、\(W(3 , f_A)=\{ c\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}\ |\ c \in \mathbb{R}\ (or\ \mathbb{C})\}\) と書けて、固有空間の基底として \(\left\{\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}\right\}\) がとれる。

(固有空間は1次元ということになる!)

大事!

行列によって定義されてない線形写像の固有値や固有空間などを考えるときは、その写像の表現行列 \(A\) を求め、その行列に対しての固有値や固有空間などを問題.22のように求めればよい!



問題.24 解答

ケーリー・ハミルトンの定理

本問は、ケーリー・ハミルトンの定理を用いれば一直線に求められる!

ケーリー・ハミルトンの定理とは、問題.22で紹介した、『固有方程式:\(det(A-\lambda E) = 0\)』に関連付けて覚えると便利だ。つまり、固有方程式の \(\lambda\) を行列 \(A\) に置き換えるのだ。

もちろん \(\lambda\) はただの数で、\(A\) は行列であるからこのように置き換えることはできないというか考えることはできないが、あくまで覚え方として知っておくとよいだろう。

問題.22の場合、固有方程式は、$$ det(A-\lambda E) = 0 \Longleftrightarrow \lambda^{3}-\lambda^{2}-4\lambda+4=0$$であったから、\(\lambda\) を行列 \(A\) に置き換えて、

$$A^{3}-A^{2}-4A+4E=O$$と書けるが、これが本当に成り立っているというのが、ケーリー・ハミルトンの定理が主張していることなのである。
※右辺は、普通の0から、零行列 \(A\) に変わったことに注意する。

ケーリー・ハミルトンの定理を証明するには『行列の三角化』などもう少し準備がいるのでここでは認めて使えるようになることを目指そう!

問題の解答

問題となっている行列の式は、\(A^{5}-4A^{3}-A^{2}+5E\) である。ケーリー・ハミルトンの定理を使うため、これを『\(A\) の多項式』だと思って、問題.22で求めた固有方程式の左辺の \(A^{3}-A^{2}-4A+4E\) で割り算をするのである。

すると、剰余の定理により、$$A^{5}-4A^{3}-A^{2}+5E=(A^{3}-A^{2}-4A+4E)(A^{2}+A+E)+E$$

となる。

※行列は分配法則が成り立ち、自分自身と単位行列だけならば交換法則も成り立つので、多項式と同様に剰余の定理が成り立つ!

ケーリー・ハミルトンの定理により、\(A^{3}-A^{2}-4A+4E=O\) が成り立つので結局、

$$A^{5}-4A^{3}-A^{2}+5E=E=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix} \cdots (答)$$

大事!

ケーリー・ハミルトンの定理を使うときは、固有方程式:\(det(A-\lambda E) = 0\) をまず求め、次に方程式の \(\lambda\) を \(A\) で置き換える。
その際、数の1は単位行列 \(E\)へ、数の0は零行列 \(O\) へ直す。


コメント

タイトルとURLをコピーしました