線形代数 厳選良問 ~第五回~ 解答

線形代数学 厳選良問

第5回 解答

問題.13 解答

ベクトル空間 \(V\) の部分集合 \(W(\ne \emptyset)\) が、部分空間になることを示す問題だ。これは、よく問われる最重要問題の一つだ。非常に多くのバリエーションがあるが、やることは決まっている。

まず、次のことは確実に抑えておこう!

ベクトル空間 \(V\) の部分集合 \(W\) が、部分空間になるための必要十分条件

ベクトル空間 \(V\) の部分集合 \(W(\ne \emptyset)\) が、部分空間になる必要十分条件は、

\((\star1)  x、y \in W \Longrightarrow x+y \in W\)

\((\star2)  x \in W、c \in \mathbb{R} \Longrightarrow cx \in W\)

の2条件が成り立つことである。

例えば、\(V=\mathbb{R}^{n}\)、\(A\) をある \(n \times n\) 行列として、$$W=\{\boldsymbol{x} \in \mathbb{R}^{n} | A\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\}$$と定めると、\(W \ne \emptyset\) かつ \(W \subset \mathbb{R}^{n}\) であり、\(\boldsymbol{x}、\boldsymbol{y} \in W \) に対して、$$A(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})=A\boldsymbol{x}+A\boldsymbol{y}=\boldsymbol{0}+\boldsymbol{0}=\boldsymbol{0} 、したがって、\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y} \in W.$$

\(\boldsymbol{x} \in W、c \in \mathbb{R}\) に対して、$$A(c\boldsymbol{x})=c(A\boldsymbol{x})=c\cdot\boldsymbol{0}=\boldsymbol{0}、したがって、c\boldsymbol{x} \in W$$

よって、\((\star1)、(\star2)\) を満たすので、\(W\) は \(V\) の部分空間となる。


では、問題の解答に移ろう。上の例と同様に、\(\star1\) と \(\star2\) が成り立つことを示すぞ。

今回与えられた \(V=\boldsymbol{R}[x]_3\) の部分集合は、\(W=\{ f(x) \in V  |  2f(x)=xf'(x)+3f^{\prime\prime}(x) \}\) であるから、
\(f(x)、g(x) \in W\) とすると、

\begin{cases}
2f(x)=xf^{\prime}(x)+3f^{\prime\prime}(x) \cdots ①\\
2g(x)=xg^{\prime}(x)+3g^{\prime\prime}(x) \cdots ②
\end{cases}が成り立つ。

①、②の各辺を足して、$$2\{f(x)+g(x)\}=x\{f'(x)+g'(x)\}+3\{f^{\prime\prime}(x)+g^{\prime\prime}(x)\}$$

ここで、微分は『分配法則が成り立つ』ので、上式は、$$ 2\{f(x)+g(x)\}=x\{f(x)+g(x)\}’+3\{f(x)+g(x)\}^{\prime\prime} $$と書ける。これは、\(f(x)+g(x) \in W\) を意味する。

また、\(f(x) \in W、c \in \mathbb{R}\) とすると、①の両辺に \(c\) を掛けて、$$2\{cf(x)\}=x\{cf^{\prime}(x)\}+3\{cf^{\prime\prime}(x)\}$$ここで、\(\{cf(c)\}’=c\{f(x)\}’\) が成り立つので、上式は、$$2\{cf(x)\}=x\{cf(x)\}^{\prime}+3\{cfx)\}^{\prime\prime}$$これは、\(cf(x) \in W\) を意味する。

以上により、\(W\) は \(V\) の部分空間である。 \(q.e.d.\)

大事!

ベクトル空間 \(V\) の部分集合 \(W(\ne \emptyset)\) が、部分空間になる必要十分条件は、
\((\star1)  x、y \in W \Longrightarrow x+y \in W\)
\((\star2)  x \in W、c \in \mathbb{R} \Longrightarrow cx \in W\)
が成り立つことである。

※解答内の二つの赤下線部分のような性質を持つ写像のことを、『線形写像』という。

写像とは、ある集合からある集合への広い意味での演算を表す言葉である。例えば、普通の四則演算『和、差、積、商』はすべて、実数から実数への写像とみなせるし、
微分・積分は、ある関数の集合から、ある関数への集合への写像とみなせるし、
\(\mathbb{R}^{n}\) における、行列による積は \(\mathbb{R}^{n}\) から \(\mathbb{R}^{n}\) への写像とみなせる。


 

問題.14 解答

与えられたベクトルの組 \(\left( \begin{array}{c}2\\-1\\2 \end{array} \right)、\left( \begin{array}{c}3\\2\\1 \end{array} \right)、\left( \begin{array}{c}4\\2\\1 \end{array} \right)\) が1次独立であるかどうか求める方法は二つある。それは、$$A=\begin{pmatrix}2&3&4\\-1&2&2\\2&1&1\end{pmatrix}$$といおいたとき、

\begin{cases}
① A のランクを求め、(Aのランク)=3 ならば1次独立、\\
\\
② A の行列式 |A| を求め、|A| \ne 0 ならば、1次独立 \end{cases}

である。

①の \(A\) のランクを求める方法は、問題.4 で見た通りである。今回の行列 \(A\) は \(3\times3\) 行列なので、サラスを用いて行列式を計算したほうが早いぞ。

$$|A|=A=\begin{vmatrix}2&3&4\\-2&3&3\\3&2&2\end{vmatrix}=4-4+12-(16+4-3)=12-17=-5\ (\ne 0)$$よって、\(|A| \ne 0\) なので、与えられたベクトルの組は1次独立である。

より深い理解へ

問題の解答としてはこれで問題ないが、大切なことは、なぜ \(|A|\ne 0\) ならば1次独立になるのか、の理解である。この理解は重要なので紹介しておく。

より深い理解を求める人はぜひ読んでほしい。

以下の話は、\(\mathbb{R}^{3}\) に限定して説明する。

まず、与えられた3つの \(3 \times 1\)ベクトル \(\boldsymbol{a}、\boldsymbol{b}、\boldsymbol{c}\) が1次独立であることの定義は、\(x、y、z \in \mathbb{R}\ (or \mathbb{C})\) に対して、

『\(\boldsymbol{a}x+\boldsymbol{b}y+\boldsymbol{c}z=\boldsymbol{0} \Longrightarrow x=y=z=0\)』が成り立つことである。

ここで、 \(\boldsymbol{a}x+\boldsymbol{b}y+\boldsymbol{c}z=\boldsymbol{0}  \cdots ①\) は、\(A=(\boldsymbol{a} \boldsymbol{b} \boldsymbol{c})\) (\(3 \times 3\)行列) とおくと、$$A\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=\boldsymbol{0}$$と書ける。

つまり、今回の例でいうと、\(\boldsymbol{a}=\left( \begin{array}{c}2\\-1\\2 \end{array} \right)、\boldsymbol{b}=\left( \begin{array}{c}3\\2\\1 \end{array} \right)、\boldsymbol{c}=\left( \begin{array}{c}4\\2\\1 \end{array} \right) \) とおくと、$$\begin{pmatrix}2&3&4\\-1&2&2\\2&1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}  \cdots ② ということだ!$$

この変形はとても重要なので、当たり前のようにできるようになってほしい。
いまいちピンとこないならば、①と②の左辺を計算すれば一致することが確認できるので一度やってみるといいだろう。

そうすると、もし、\(|A| \ne 0\) ならば、\(A\) の逆行列 \(A^{-1}\) が存在するので、 ①の左から \(A^{-1}\) をかけて、\(\begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=\boldsymbol{0}\) を得る。

つまり、\(|A| \ne 0\) ならば、必ず \(x=y=z=0\) が示されるということだ。

よって、\(|A| \ne 0\) ならば、\(\boldsymbol{a}、\boldsymbol{b}、\boldsymbol{c}\) は1次独立であることが示されるのである。

大事!

与えられた \(n\) 個の \(n \times 1\) ベクトル \(\boldsymbol{a_1}、\boldsymbol{a_2}、\cdots \boldsymbol{a_n}\) が1次独立であるかどうかを判定するには、$$A=(\boldsymbol{a_1} \boldsymbol{a_2} \cdots \boldsymbol{a_n}) (n \times n行列)$$ と置いたとき、
\begin{cases}
① A のランクを求め、(Aのランク)=n ならば1次独立、\\
\\
② A の行列式 |A| を求め、|A| \ne 0 ならば、1次独立 \end{cases}


 

問題.15 解答

本問は『基底の変換行列』を求める問題だ。

この手の問題は、『定義』を知ってないと絶対に解けないタイプの問題だ。逆に定義を知っていれば絶対に解ける問題とも言えるぞ。

よって、次の定義は必ず押さえて行こう!

基底の変換行列の定義

\(\boldsymbol{v_i}、\boldsymbol{w_j} (1 \le i , j \le 3) \) は \(3 \times 1\)ベクトルとする。

\(\boldsymbol{v}=\{\boldsymbol{v_1}、\boldsymbol{v_2}、\boldsymbol{v_3}\}\)、\(\boldsymbol{w}=\{\boldsymbol{w_1}、\boldsymbol{w_2}、\boldsymbol{w_3}\}\)は、\(\mathbb{R}^{3}\) の基底とする。

基底 \(\boldsymbol{v}\) から 基底 \(\boldsymbol{w}\) への変換行列 \(P\) とは、

$$(\boldsymbol{w_1} \boldsymbol{w_2} \boldsymbol{w_3})=(\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})P$$を満たす \(3\times3\)行列のことである。

ここで、\((\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})\) と \((\boldsymbol{w_1} \boldsymbol{w_2} \boldsymbol{w_3})\) は \(3 \times 1\)ベクトルを並べた\(3 \times 3\)行列であることに注意。

※3次元から、一般の\(n\) 次元になっても同じ定義である。

今回の場合、\((\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})=\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}\)、\((\boldsymbol{w_1} \boldsymbol{w_2} \boldsymbol{w_3})=\begin{pmatrix}1&-1&1\\1&-1&-1\\1&1&-1\end{pmatrix}\)であるから、定義によると、

$$\begin{pmatrix}1&-1&1\\1&-1&-1\\1&1&-1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}P$$を満たす \(3\times3\)行列 \(P\) を求めればよいのだ。

ここで、\(V=\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}\)、\(W=\begin{pmatrix}1&-1&1\\1&-1&-1\\1&1&-1\end{pmatrix}\) とおくと、

\(W=VP\) と書けるので、\(P=V^{-1}W\) と求めることができる。したがって、\(V\) の逆行列 \(V^{-1}\) を求めればよいのだ。

※基底の変換行列の定義さえ知っていれば、本問は \(3\times3\)行列の逆行列を求める問題に他ならないのだ!

さて、問題.5で \(3\times3\)行列の逆行列を求める方法を紹介した。それは、『基本変形による求め方』であった。復習のつもりでここでもう一度やってみよう。

(基本変形による解法)

\begin{matrix}
1&0&1&\ &1&0&0\\1&1&0&\ &0&1&0\\0&1&1&\ &0&0&1
\end{matrix}からスタートするのだった。まず、第2行から第1行を引いて、

\begin{matrix}
1&0&1&\ &1&0&0\\0&1&-1&\ &-1&1&0\\0&1&1&\ &0&0&1
\end{matrix}第3行から第2行を引くと、

\begin{matrix}
1&0&1&\ &1&0&0\\0&1&-1&\ &-1&1&0\\0&0&2&\ &1&-1&1
\end{matrix}第3行に \(\frac{1}{2}\) をかけてから、第2行に加え、かつ第1行から引くと、

\begin{matrix}
1&0&0&\ &\frac{1}{2}&\frac{1}{2}&-\frac{1}{2}\\0&1&0&\ &-\frac{1}{2}&\frac{1}{2}&\frac{1}{2}\\0&0&1&\ &\frac{1}{2}&-\frac{1}{2}&\frac{1}{2}
\end{matrix}左側の行列が単位行列になったのでこれで基本変形は終了で、右側の行列が\(\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}\) の逆行列となるのだった。

すなわち、$$\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}^{-1}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}1&1&-1\\-1&1&1\\1&-1&1\end{pmatrix}$$である。ゆえに、求める基底の変換行列は定義により、

$$P=V^{-1}W=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}1&1&-1\\-1&1&1\\1&-1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-1&1\\1&-1&-1\\1&1&-1\end{pmatrix}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}1&-3&1\\1&1&-3\\1&1&1\end{pmatrix}$$これが求める変換行列である。

問題の解答としてはこれでよいが、本問は理論的には非常に含蓄のある問題なのだ。

より深い理解へ

ここでは、『基底の変換行列の意味』を考えよう。

上で見た通り基底の変換行列の求め方はわかった。では、基底の変換行列を求める意義とは何なのだろうか?基底の変換行列を求めて何かいいことはあるのだろうか?

以下の議論は、\(\mathbb{R}^{3}\) について考えよう。

問題で与えられた二つの基底:$$\boldsymbol{v}=\{\boldsymbol{v_1}、\boldsymbol{v_2}、\boldsymbol{v_3}\}=\left\{ \left( \begin{array}{c}1\\1\\0 \end{array} \right) , \left( \begin{array}{c}0\\1\\1 \end{array} \right) , \left( \begin{array}{c}1\\0\\1 \end{array} \right) \right\}、$$$$\boldsymbol{w}=\{\boldsymbol{w_1}、\boldsymbol{w_2}、\boldsymbol{w_3}\}=\left\{ \left( \begin{array}{c}1\\1\\1 \end{array} \right) , \left( \begin{array}{c}-1\\-1\\1 \end{array} \right) , \left( \begin{array}{c}1\\-1\\-1 \end{array} \right) \right\} $$を用いて、\(\mathbb{R}^{3}\) の任意の元 \(\boldsymbol{x}\) は、1次結合として、

$$\boldsymbol{x}=a_1\boldsymbol{v_1}+a_2\boldsymbol{v_2}+a_3\boldsymbol{v_3}$$$$\boldsymbol{x}=b_1\boldsymbol{w_1}+b_2\boldsymbol{w_2}+b_3\boldsymbol{w_3}$$と表せる。

このとき、基底 \(\boldsymbol{v}=\{\boldsymbol{v_1}、\boldsymbol{v_2}、\boldsymbol{v_3}\}\) に関する座標というのは、1次結合の各係数を並べた \((a_1 , a_2 , a_3)\) のことをいう。

同様に、基底 \(\boldsymbol{w}=\{\boldsymbol{w_1}、\boldsymbol{w_2}、\boldsymbol{w_3}\}\) に関する座標とは、\((b_1 , b_2 , b_3)\) のことをいう。

注意

※我々になじみの深い普通の \(xyz\) 空間における座標 \((a , b , c)\) は基底: \(\left\{ \left( \begin{array}{c}1\\0\\0 \end{array} \right) , \left( \begin{array}{c}0\\1\\0 \end{array} \right) , \left( \begin{array}{c}0\\0\\1 \end{array} \right) \right\}\) に関する座標とみなせる。

次のように考えてみよう。

\(\mathbb{R}^{3}\) という世界がある。この世界に基底という一種の『制約』を与えるのだ。

基底 \(\boldsymbol{v}\) という制約が与えられた \(\mathbb{R}^{3}\) の世界を \((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{v})\) と書こう。同様に、基底 \(\boldsymbol{w}\) という制約が与えられた \(\mathbb{R}^{3}\) の世界を \((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{w})\) と書く。

そして、\(\mathbb{R}^{3}\) の任意の元 \(\boldsymbol{x}\) は、\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{v})\) の世界において座標 \((a_1 , a_2 , a_3)\) という表示を持ち、\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{w})\) の世界において座標 \((b_1 , b_2 , b_3)\) という座標を持つ。

見た目は変わったけどもとは \(\mathbb{R}^{3}\) の同じ元 \(\boldsymbol{x}\) である。

さて、これでようやく基底の変換行列 \(P\) の意味を話せるようになった。

結論から言うと 基底の変換行列 \(P\) は、 \((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{v})\) の世界と、\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{w})\) の世界の『橋渡し役』を演じるのだ。

例えば、\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{w})\) の世界で \(^{t}(1 , 1 , 1)\) という座標を持つ元は、\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{v})\) の世界ではどのような座標表示を持つのだろうか?

その答えは、 \(^{t}(1 , 1 , 1)\) に \(P\) をかけてやればよいのだ。

逆に、\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{v})\) の世界で \(^{t}(1 , 1 , 1)\) という座標を持つ元は、\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{w})\) の世界ではどのような座標表示となるのだろう?

その答えは、 \(^{t}(1 , 1 , 1)\) に \(P^{-1}\) をかけてやればよいのだ。

これが、基底の変換行列の意味なのだ! 一言でいうと、『二つの世界の橋渡し役』である。

実際に、上で述べた通りになっていることのチェックしてみよう。地道に求めようとすると結構大変なことが分かるぞ。

\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{w})\) の世界で \(^{t}(1 , 1 , 1)\) という座標を持つ元は、座標の定義から、$$^{t}(1 , 1 , 1) \longrightarrow 1\cdot \boldsymbol{w_1}+1\cdot \boldsymbol{w_2}+1\cdot \boldsymbol{w_3}$$

$$=\left( \begin{array}{c}1\\1\\1 \end{array} \right)+\left( \begin{array}{c}-1\\-1\\1 \end{array} \right)+\left( \begin{array}{c}1\\-1\\-1 \end{array} \right)=\left( \begin{array}{c}1\\-1\\1 \end{array} \right)$$となる。

この元の \((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{v})\) の世界における座標を求めたいから、$$\left( \begin{array}{c}1\\-1\\1 \end{array} \right)=a_1\boldsymbol{v_1}+a_2\boldsymbol{v_2}+a_3\boldsymbol{v_3}  \cdots ①$$を解かなくてはいけない。右辺を計算すると、これは \(a_1、a_2、a_3\) についての3元連立方程式となる。

ここで、前問の『より深い理解へ』で説明した重要な変形を思いだしてほしい。①の右辺は、$$a_1\boldsymbol{v_1}+a_2\boldsymbol{v_2}+a_3\boldsymbol{v_3}=(\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array} \right)$$と変形できるだろう。するとこれは、

$$(\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array} \right)=\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array}\right) $$と、行列を用いて表せる!したがって①は、$$\left( \begin{array}{c}1\\-1\\1 \end{array} \right)=\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array} \right)$$と書けて、両辺の左から \(\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}^{-1}\) を掛けることによって、$$\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array}\right)=\begin{pmatrix}1&0&1\\1&1&0\\0&1&1\end{pmatrix}^{-1}\left(\begin{array}{c}1\\-1\\1 \end{array} \right)=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}1&1&-1\\-1&1&1\\1&-1&1\end{pmatrix}\left(\begin{array}{c}1\\-1\\1 \end{array} \right)=\frac{1}{2}\left(\begin{array}{c}-1\\-1\\3 \end{array} \right)$$を得る。これが、\((\mathbb{R}^{3} , \boldsymbol{v})\) の世界における座標表示である。(結構長い計算だっただろう?)

さて、この計算が変換行列 \(P\) を用いるとどうなるのか?

上の説明によると、\(^{t}(1 , 1 , 1)\) に \(P\) をかけてやればよいと言うのでかけてみると、$$P\left(\begin{array}{c}1\\1\\1 \end{array} \right)=\frac{1}{2}\begin{pmatrix}1&-3&1\\1&1&-3\\1&1&1\end{pmatrix}\left(\begin{array}{c}1\\1\\1 \end{array} \right)=\frac{1}{2}\left(\begin{array}{c}-1\\-1\\3 \end{array} \right)$$となって、上で得た値と確かに一致した! (かなりの時短だ!)

さて、いかがっだっただろうか?

基底の変換行列の真の意味は、二つの異なる基底によって定められた二つの世界の『橋渡し役』になるということが分かっていただけただろうか?

最後に、『なぜ、基底の変換行列 \(P\) は橋渡し役となれるのか?』という疑問に答えて終わりたいと思う。これは、数学的に厳密に証明されるのだ。すこし、テクニカルな証明なので興味がある人は下のアコーディオンボックスをクリックしてほしい。

本問の解説はかなりのボリュームになってしまったので、無理に厳密な証明まで読む必要はなく、十分に慣れてきてから読んでもよいだろう。

\(\mathbb{R}^{3}\) の元 \(\boldsymbol{x}\) は、二つの基底それぞれに関して、
$$\boldsymbol{x}=a_1\boldsymbol{v_1}+a_2\boldsymbol{v_2}+a_3\boldsymbol{v_3}$$$$\boldsymbol{x}=b_1\boldsymbol{w_1}+b_2\boldsymbol{w_2}+b_3\boldsymbol{w_3}$$とかける。これらは、$$\boldsymbol{x}=(\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array} \right) $$$$\boldsymbol{x}=(\boldsymbol{w_1} \boldsymbol{w_2} \boldsymbol{w_3})\left( \begin{array}{c}b_1\\b_2\\b_3 \end{array}\right) $$と変形できる。これらは、見た目は違うだけで同じ元を表すから、$$(\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array} \right)=(\boldsymbol{w_1} \boldsymbol{w_2} \boldsymbol{w_3})\left( \begin{array}{c}b_1\\b_2\\b_3 \end{array}\right)  \cdots ①$$と書ける。

ここで、基底の変換行列の定義は、\((\boldsymbol{w_1} \boldsymbol{w_2} \boldsymbol{w_3})=(\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})P\) であったので、①の右辺の \((\boldsymbol{w_1} \boldsymbol{w_2} \boldsymbol{w_3})\) に代入して、$$(\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array} \right)=(\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})P\left( \begin{array}{c}b_1\\b_2\\b_3 \end{array}\right)  \cdots ②$$
\((\boldsymbol{v_1} \boldsymbol{v_2} \boldsymbol{v_3})\) は基底、特に1次独立であるので、②から$$\left( \begin{array}{c}a_1\\a_2\\a_3 \end{array} \right)=P\left( \begin{array}{c}b_1\\b_2\\b_3 \end{array}\right) $$を得る。これは、基底の変換行列 \(P\) が橋渡しとなっていることを示している。 \(q.e.d.\)

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