第7回 解答
問題.19 解答
解く前に
本問は、表現行列を求めるオーソドックスな問題である。大学の講義などで一度習っていたとしても、初見では、何を言っているのかさっぱり分からないという状態に陥りやすい。それは、表現行列の定義を理解していないことに起因する。
線形代数学の問題に限らず、大学数学の問題を解くうえで一番大事なのが、計算力でもなく、発想力やひらめきでもなく、定義の正確な理解なのだ。
私自身、実践してきたからこそ自信を持って言えることが一つある。それは、
$$『定義さえ理解すれば何とかなる!』$$
ということだ。何とかなるというのは、自分であれこれ考えて問題が解けるようになるということだ。
これは、大学数学を学ぶ上での奥義である。まず定義をしっかり理解し、覚える。その後は、その知識のみで問題を解きまくる。
ということなので、まずは表現行列の定義から紹介しよう。
本問を解くうえで必ず必要となるのが、『表現行列の定義』である。この定義はとにかく覚えるしかない。できれば理解した上で覚えた方が良いが、『理解』の方は問題を解いていくうちに、知らず知らずのうちに深まっていくものである。なのですこし乱暴な言い方だが、『しのご言わずにとにかく覚えよう!』と言いたい。
表現行列の定義
\(U\) を \(n\) 次元ベクトル空間、\(V\) を \(m\) 次元ベクトル空間とする。
\(f : U \longrightarrow V\) は線形写像とする。
\(U\)、\(V\) の基底をそれぞれ、\(\{\boldsymbol{u}_1\ ,\cdots\ ,\boldsymbol{u}_n\}\)、\(\{\boldsymbol{v}_1\ ,\cdots\ ,\boldsymbol{v}_m\}\) とする。ただし、簡単のためそれぞれ、\(\{\boldsymbol{u}_i\}\) と \(\{\boldsymbol{v}_j\}\) で表すことにする。このとき、基底 \(\{\boldsymbol{u}_i\}\) と \(\{\boldsymbol{v}_j\}\) に関する \(f\) の表現行列とは、
$$(f(\boldsymbol{u}_1)\ ,\ \cdots\ \ ,\ f(\boldsymbol{u}_n))=(\boldsymbol{v}_1\ ,\ \cdots\ ,\ \boldsymbol{v}_m)\begin{pmatrix}a_{11}&\cdot&\cdot&\cdot&a_{1n}\\ \cdot&\ &\ &\ &\ \cdot\\ \cdot&\ &\ &\ &\ \cdot\\ \cdot&\ &\ &\ &\ \cdot\\a_{m1}&\cdot&\cdot&\cdot&a_{mn}\end{pmatrix}$$
によって定められる、\(m \times n\) 行列 \(A\) のことである。
これが表現行列の定義である。
こう一般的にやられてしまうと、もう一気にやる気がなくなってしまうだろう?
安心してほしい。この手の定義は、具体的な問題を通して触れていくと、とても良く理解ができるのだ。そのために今回の問題を用意したと言ってもいい。
さて、先ほど定義はとにかく覚えようと言った。もちろん定義を覚えていれば問題は解けるようにはなる。
ただ、表現行列の定義について一つだけ理解してほしいことがある。
それは、『表現行列の意味』についてである。それは、とても簡単なことである。
表現行列の定義式をもう一度書くと、$$(f(\boldsymbol{u}_1)\ ,\ \cdots\ \ ,\ f(\boldsymbol{u}_n))=(\boldsymbol{v}_1\ ,\ \cdots\ ,\ \boldsymbol{v}_m)\begin{pmatrix}a_{11}&\cdot&\cdot&\cdot&a_{1n}\\ \cdot&\ &\ &\ &\ \cdot\\ \cdot&\ &\ &\ &\ \cdot\\ \cdot&\ &\ &\ &\ \cdot\\a_{m1}&\cdot&\cdot&\cdot&a_{mn}\end{pmatrix}$$
である。ここで、右辺をちょっと計算してみてほしい。すると、
$$\big(a_{11}\boldsymbol{v}_1+\cdots+a_{m1}\boldsymbol{v}_m\ ,\ a_{12}\boldsymbol{v}_1+\cdots+a_{m2}\boldsymbol{v}_m\ ,\ \cdots\ ,\ a_{1n}\boldsymbol{v}_1+\cdots+a_{mn}\boldsymbol{v}_m \big)$$となるので、左辺と各成分を比べて、
\begin{cases}f(\boldsymbol{u}_1)=a_{11}\boldsymbol{v}_1+\cdots+a_{m1}\boldsymbol{v}_m\\
f(\boldsymbol{u}_2)=a_{12}\boldsymbol{v}_1+\cdots+a_{m2}\boldsymbol{v}_m\\
\ \ \ \cdot\\
\ \ \ \cdot\\
f(\boldsymbol{u}_n)=a_{1n}\boldsymbol{v}_1+\cdots+a_{mn}\boldsymbol{v}_m
\end{cases}
を得るだろう。これは、次のことを意味する。
\(U\) の基底となっている元 \(\boldsymbol{u}_i\) に \(f\) を作用させると、\(V\) の元となるので、\(V\) の基底 \(\{\boldsymbol{v}_j\}\) を用いて1次結合の形で表されるが、表した結果、上のようになったということだ。そして、その1次結合の形で表された結果を行列を用いて表したときに生まれた行列 \(A=(a_{ij})\) を(基底 \(\{\boldsymbol{u}_i\}\) と \(\{\boldsymbol{v}_j\}\) に関する)\(f\) の表現行列と呼ぼうと定めたわけだ。これが表現行列の意味だ!
ちょっと何言ってるかわからなかったら、とりあえず定義を覚えて問題を解けるようになれば今は十分だ。では、問題の解答に移ろう。
問題の解答
さて、今回の問題を、上で紹介した定義に当てはめてみよう。今回は、
\(U=\mathbb{R}^{3}\)、\(V=\mathbb{R}^{2}\)で、
線形写像 \(f_A : \mathbb{R}^{3} \longrightarrow \mathbb{R}^{2}\) は行列 \(A=\begin{pmatrix}1&2&1\\-1&1&2\end{pmatrix}\) によって定められている。
そして、\(U\) の基底 \(\boldsymbol{u}_i\) が$$\boldsymbol{u}_1=\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}、\boldsymbol{u}_2=\begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix}、\boldsymbol{u}_3=\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}$$
\(V\) の基底 \(\boldsymbol{v}_i\) が$$\boldsymbol{v}_1=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}、\boldsymbol{v}_2=\begin{pmatrix}2\\1\\0\end{pmatrix}$$である。
よって、定義により、求める表現行列を \(B\) とおくと、
$$(f_A(\boldsymbol{u}_1)\ ,\ f_A(\boldsymbol{u}_2)\ ,\ f_A(\boldsymbol{u}_3))=(\boldsymbol{v}_1\ ,\ \boldsymbol{v}_2)B\ \cdots\ ①$$と書ける。ここで、
\(f_A(\boldsymbol{u}_1)=A\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&1\\-1&1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1\\-1\end{pmatrix}、\)
\(f_A(\boldsymbol{u}_2)=A\begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&1\\-1&1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1\\-2\end{pmatrix}、\)
\(f_A(\boldsymbol{u}_3)=A\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&1\\-1&1&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}、\)
となるので、①は
$$\begin{pmatrix}1&-1&2\\-1&-2&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2\\-1&1\end{pmatrix}B$$と書ける。よって、表現行列 \(B\) は、\(B=\begin{pmatrix}1&2\\-1&1\end{pmatrix}^{-1}\begin{pmatrix}1&-1&2\\-1&-2&1\end{pmatrix}\) によって与えられる。
ここで、\(\begin{pmatrix}1&2\\-1&1\end{pmatrix}^{-1}=\frac{1}{3}\begin{pmatrix}1&-2\\1&1\end{pmatrix}\) より、
$$B=\frac{1}{3}\begin{pmatrix}1&-2\\1&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&-1&2\\-1&-2&1\end{pmatrix}=\frac{1}{3}\begin{pmatrix}3&3&0\\0&-3&3\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&1&0\\0&-1&1\end{pmatrix}$$より、$$B=\begin{pmatrix}1&1&0\\0&-1&1\end{pmatrix}\ \cdots\ (答)となる。$$
さて、どうだっただろうか? とりあえず、定義さえ知っていれば、本問のようにそれほど苦なく答えを出せることが分かるだろう。ただ、定義通りやっただけである。
本問の最後に
これまでに、表現行列の定義を紹介し意味も伝えた。最後に伝えたいことは、表現行列の意義である。つまり、表現行列を求めることによってなにか良いことはあるのか? という疑問に対する答えを伝えたいのだ。これは、理論的にとても大事なことなので、ぜひ飛ばさず読んでほしい。
表現行列 \(B\) は二つの与えられたベクトル空間の基底を用いて定義されていた。もう一度、定義式を書くと、$$(f_A(\boldsymbol{u}_1)\ ,\ f_A(\boldsymbol{u}_2)\ ,\ f_A(\boldsymbol{u}_3))=(\boldsymbol{v}_1\ ,\ \boldsymbol{v}_2)B$$である。
このように定義された表現行列はどのような役割をしてくれるのだろうか? 実は、次のような重要な役割を担っているのだ。
本問の場合、\(U=\mathbb{R}^{3}\) の任意の元 \(\boldsymbol{x}\) は、\(U\) の基底 \(\{\boldsymbol{u}_i\}\) を用いて、
$$\boldsymbol{x}=x_1\boldsymbol{u_1}+x_2\boldsymbol{u_2}+x_3\boldsymbol{u_3} (x_1 , x_2 , x_3 \in \mathbb{R})$$のように1次結合の形に表される。
ここで、\((x_1 , x_2 , x_3) \)のことを基底 \(\{\boldsymbol{u}_i\}\)に関する座標という。
次に、この \(\boldsymbol{x}\) に \(f_A\) を作用させると \(\boldsymbol{y}=f_A(\boldsymbol{x})\) となったとしよう。\(\boldsymbol{y}\) は \(V=\mathbb{R}^{2}\) の元であるから、\(V=\mathbb{R}^{2}\) の基底 \(\{\boldsymbol{v}_j\}\) を用いて、
$$\boldsymbol{y}=y_1\boldsymbol{v_1}+y_2\boldsymbol{v_2} (y_1 , y_2 \in \mathbb{R})$$ のように1次結合の形に表される。
ここで、\((y_1 , y_2)\)のことを基底 \(\{\boldsymbol{v}_j\}\)に関する座標という。
このとき、これら座標 \(^{t}\!(x_1 , x_2 , x_3)\) と \(^{t}\!(y_1 , y_2)\) との間に、
$$\begin{pmatrix}y_1\\y_2\end{pmatrix}=B\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\\x_3\end{array}\right) $$ という関係が成り立つのだ!
すなわち、表現行列は、二つのベクトル空間の座標をつなぐ『橋渡し役』となっているのだ。
この事実の証明は、下のアコーディオンボックスにまとめておいたので、余裕があるならみてほしい。
一般に \(U(n次元)\) と \(V(m次元)\) として証明する。
$$\boldsymbol{y}=f(\boldsymbol{x})=f(\sum_{j=1}^{n}x_j \boldsymbol{u}_j)
=\sum_{j=1}^{n}x_j f(\boldsymbol{u}_j)$$
$$=\sum_{j=1}^{n}x_j \left(\sum_{i=1}^{m}a_{ij}\boldsymbol{v}_i\right)=\sum_{i=1}^{m}\left(\sum_{j=1}^{n}a_{ij}x_j\right)\boldsymbol{v}_i \cdots ①$$
他方、$$\boldsymbol{y}=\sum_{i=1}^{m}y_i \boldsymbol{v}_i$$であるから、①と \(\boldsymbol{v_i}\) の係数を比較して、
$$\begin{pmatrix}y_1\\ \vdots\\y_m\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\sum_{j=1}^{n}a_{1j}x_j\\ \vdots\\ \sum_{j=1}^{n}a_{mj}x_j\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}a_{11}&\cdots&a_{1n}\\ \vdots&\ &\ \vdots\\ a_{m1}&\cdots&a_{mn}\end{pmatrix}\begin{pmatrix}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{pmatrix}$$
すなわち、表現行列を \(B\) とおくと、\(\begin{pmatrix}y_1\\ \vdots\\y_m\end{pmatrix}=B\begin{pmatrix}x_1\\ \vdots\\x_n\end{pmatrix}\) \(q.e.d.\)
では、次の問題に進もう。
問題.20 解答
(1) 本問も表現行列を求める問題だ。上の問題.19でやったように、今回の問題を上で紹介した定義に当てはめてみよう。
\(U=\mathbb{R}[x]_2\)、\(V=\mathbb{R}[x]_2\)(つまり、\(U=V\))で、
線形写像 \(f : \mathbb{R}[x]_2 \longrightarrow \mathbb{R}[x]_2\) は微分 \(f(g(x))=\frac{d}{dx}g(x)\) によって定められている。
そして、\(U\) の基底 \(\boldsymbol{u}_i\) が$$\boldsymbol{u}_1=1、 \boldsymbol{u}_2=x、 \boldsymbol{u}_3=x^{2}$$
今回は、\(U=V\) であるから \(V\) の基底 \(\boldsymbol{v}_i\) も $$\boldsymbol{v}_1=1、 \boldsymbol{v}_2=x、 \boldsymbol{v}_3=x^{2}$$ということである。
このようなとき、問題文のように『 \(U\ (=V)\) の基底 \( \{ 1\ ,x\ ,x^{2}\} \) に関する \(f\) の表現行列を求めよ。』のような言い方をする。
よって、定義により、求める表現行列を \(A\) とおくと、
$$(f(\boldsymbol{u}_1)\ ,\ f(\boldsymbol{u}_2)\ ,\ f(\boldsymbol{u}_3))=(\boldsymbol{v}_1\ ,\ \boldsymbol{v}_2\ ,\ \boldsymbol{v}_3)A \cdots ①$$と書ける。ここで、
$$f(\boldsymbol{u}_1)=f(1)=\frac{d}{dx}1=0、$$$$f(\boldsymbol{u}_2)=f(x)=\frac{d}{dx}x=1、$$$$f(\boldsymbol{u}_3)=f(x^{2})=\frac{d}{dx}x^{2}=2x$$なので①は、
$$(0 , 1 , 2x)=(1 , x , x^{2})A$$と書ける。これから、どうやって表現行列 \(A\) を求めるのだろうか?
左辺が \(1 \times 3\) 行列であるから、 \(A\) は \(3 \times 3\) 行列でなければならないことはよろしいだろうか? ここまで分かれば後は頭の中だけで \(A\) を求めることができる。すなわち、$$A=\begin{pmatrix}0&1&0\\0&0&2\\0&0&0\end{pmatrix} \cdots (答)$$
これが、実際に答えになっていることは計算してみたら納得してもらえると思う。
本問も定義通りやって問題なく解けた。最初に『定義さえ知っていれば何とかなる』と言った意味が分かってきてくれたらうれしい。
では、最後の問題に進もう。
問題.21 解答
最後の問題は、本質的には問題.19と同じ表現行列を求める問題なのだが、知っていると得する技を紹介できる問題となっている。
(1) これは、前問の(1)と同じ問題である。もう一度定義に従って解くと、
\(U=\mathbb{R}^{3}\)、\(V=\mathbb{R}^{3}\)(つまり、\(U=V\))で、
線形写像 \(f : \mathbb{R}^{3} \longrightarrow \mathbb{R}^{3}\) は問題で定義されているとおりである。いま一度書くと、
$$f(\boldsymbol{e}_1)=\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}、f(\boldsymbol{e}_2)=\begin{pmatrix}0\\-1\\0\end{pmatrix}、f(\boldsymbol{e}_3)=\begin{pmatrix}-1\\0\\-1\end{pmatrix}$$である。
そして、\(U\) の基底 \(\{\boldsymbol{u}_i\}\) も \(V\) の基底 \(\{\boldsymbol{v}_i\}\) も \(\boldsymbol{e}_1=\begin{pmatrix}1\\0\\0\end{pmatrix}、\boldsymbol{e}_2=\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}、\boldsymbol{e}_3=\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}\) であたえられているということだ。
定義により、求める表現行列を \(A\) とおくと、
$$(f(\boldsymbol{e}_1)\ ,\ f(\boldsymbol{e}_2)\ ,\ f(\boldsymbol{e}_3))=(\boldsymbol{e}_1\ ,\ \boldsymbol{e}_2\ ,\ \boldsymbol{e}_3)A \cdots ①$$と書ける。
右辺は、もちろん \(EA=A\) となるので、求める表現行列 \(A\) は左辺の行列に等しくなる。すなわち、
$$A=\begin{pmatrix}1&0&-1\\0&-1&0\\1&0&-1\end{pmatrix} \cdots (答)$$
(2) (2)の前半の基底の変換行列を求める問題は、第5回の「問題.15」と同じ問題である。
詳しくはぜひそちらの解説を見てほしい。
(基底の変換行列と表現行列を混同しないように注意だ!)
基底の変換行列の定義より、
$$(\boldsymbol{u}_1 , \boldsymbol{u}_2 , \boldsymbol{u}_3)=(\boldsymbol{e}_1 , \boldsymbol{e}_2 , \boldsymbol{e}_3)P$$と書ける。右辺はもちろん \(EP=P\) となるので、
$$P=(\boldsymbol{u}_1 , \boldsymbol{u}_2 , \boldsymbol{u}_3)=\begin{pmatrix}0&-1&1\\1&0&-1\\0&-1&0\end{pmatrix} \cdots (答)$$を得る。
(2)の後半である、『基底 \(\{\boldsymbol{u}_i\}\) に関する \(f\) の表現行列を求めよ』について、定義通りに解こうとするならば、
$$(f(\boldsymbol{u}_1) , f(\boldsymbol{u}_2) , f(\boldsymbol{u}_3))=(\boldsymbol{u}_1 , \boldsymbol{u}_2 , \boldsymbol{u}_3)B (=PB) \cdots ①$$を解くことになる。ここで、
\begin{cases}\boldsymbol{u}_1=\boldsymbol{e}_2\\
\boldsymbol{u}_2=-\boldsymbol{e}_1-\boldsymbol{e}_3\\
\boldsymbol{u}_3=\boldsymbol{e}_1-\boldsymbol{e}_2
\end{cases}であるから、\(f\) の定義より、
$$f(\boldsymbol{u}_1)=f(\boldsymbol{e}_2)=\begin{pmatrix}0\\-1\\0\end{pmatrix}、$$
$$f(\boldsymbol{u}_2)=f(-\boldsymbol{e}_1-\boldsymbol{e}_3)=-f(\boldsymbol{e}_1)-f(\boldsymbol{e}_3)=\begin{pmatrix}-1\\0\\-1\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}、$$
$$f(\boldsymbol{u}_3)=f(\boldsymbol{e}_1-\boldsymbol{e}_2)=f(\boldsymbol{e}_1)-f(\boldsymbol{e}_2)=\begin{pmatrix}1\\0\\1\end{pmatrix}+\begin{pmatrix}0\\1\\0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1\\1\\1\end{pmatrix}$$となる。したがって、①は
$$\begin{pmatrix}0&0&1\\-1&0&1\\0&0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&-1&1\\1&0&-1\\0&-1&0\end{pmatrix}B (=PB)$$と書けるので、 \(B\) は、
$$B=P^{-1}\begin{pmatrix}0&0&1\\-1&0&1\\0&0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&-1&1\\1&0&-1\\0&-1&0\end{pmatrix}^{-1}\begin{pmatrix}0&0&1\\-1&0&1\\0&0&1\end{pmatrix}$$を計算することによって求められる。
\(P^{-1}=\begin{pmatrix}0&-1&1\\1&0&-1\\0&-1&0\end{pmatrix}^{-1}\) は、基本変形を利用して求めよう。
$$\begin{matrix}0&-1&1&\ &\ 1&0&0\\1&0&-1&\ &\ 0&1&0\\0&-1&0&\ &\ 0&0&1\end{matrix}$$からスタートする。第1行から第3行を引き、第3行に \(-1\) かけると、
$$\begin{matrix}0&0&1&\ &\ 1&0&-1\\1&0&-1&\ &\ 0&1&0\\0&1&0&\ &\ 0&0&-1\end{matrix}$$第2行に第1行を足して、
$$\begin{matrix}0&0&1&\ &\ 1&0&-1\\1&0&0&\ &\ 1&1&-1\\0&1&0&\ &\ 0&0&-1\end{matrix}$$第1行を第3行に移動して、
$$\begin{matrix}1&0&0&\ &\ 1&1&-1\\0&1&0&\ &\ 0&0&-1\\0&0&1&\ &\ 1&0&-1\end{matrix}$$これより、
$$P^{-1}=\begin{pmatrix}0&-1&1\\1&0&-1\\0&-1&0\end{pmatrix}^{-1}=\begin{pmatrix}1&1&-1\\0&0&-1\\1&0&-1\end{pmatrix}$$となる。したがって、
$$B=P^{-1}\begin{pmatrix}0&0&1\\-1&0&1\\0&0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0&-1&1\\1&0&-1\\0&-1&0\end{pmatrix}^{-1}\begin{pmatrix}0&0&1\\-1&0&1\\0&0&1\end{pmatrix}$$$$=\begin{pmatrix}1&1&-1\\0&0&-1\\1&0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&0&1\\-1&0&1\\0&0&1\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1&0&1\\0&0&-1\\0&0&0\end{pmatrix} \cdots (答)$$となる。これでもちろん良いのだが、冒頭で言ったように『知っていると得する技』というものを紹介したい。
その技というのは、(1)で求めた基底 \(\{\boldsymbol{e}_i\}\) に関する \(f\) の表現行列 \(A\) と、(2)の前半で求めた基底の変換 \(\{\boldsymbol{e}_i\} \longrightarrow \{\boldsymbol{u}_i\}\) の行列 \(P\) を利用する方法である。
結論から言うと、$$B=P^{-1}AP$$が成り立つのだ!
実際に、\(p^{-1}\) については、上で求めた通り、$$P^{-1}=\begin{pmatrix}1&1&-1\\0&0&-1\\1&0&-1\end{pmatrix}$$であるから、
$$B=P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&1&-1\\0&0&-1\\1&0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&0&-1\\0&-1&0\\1&0&-1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&-1&1\\1&0&-1\\0&-1&0\end{pmatrix}$$
$$=\begin{pmatrix}0&-1&0\\-1&0&1\\0&0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&-1&1\\1&0&-1\\0&-1&0\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}-1&0&1\\0&0&-1\\0&0&0\end{pmatrix}$$となって上で求めた答えと一致する。
問題は、なぜ \(B=P^{-1}AP\) が成り立つのかということだが、この証明は『形式的な変形』によって簡単に導くことができるのだ。(簡単だと思えるようになったのは、もちろん十分練習を積んだ結果であることは言うまでもない)
\(B=P^{-1}AP\) の証明
(証明)
基底 \(\{\boldsymbol{u}_i\}\) に関する \(f\) の表現行列 \(B\) の定義をもう一度書くと、
$$(f(\boldsymbol{u}_1) , f(\boldsymbol{u}_2) , f(\boldsymbol{u}_3))=(\boldsymbol{u}_1 , \boldsymbol{u}_2 , \boldsymbol{u}_3)B (=PB) \cdots \star$$である。ここで、左辺を以下のように『形式的』に変形していく。
\begin{split}
(f(\boldsymbol{u}_1) , f(\boldsymbol{u}_2) , f(\boldsymbol{u}_3))&=f(\boldsymbol{u}_1, \boldsymbol{u}_2 , \boldsymbol{u}_3)\\
&=f((\boldsymbol{e}_1 , \boldsymbol{e}_2 , \boldsymbol{e}_3)P)\\
&=(f(\boldsymbol{e}_1) , f(\boldsymbol{e}_2) , f(\boldsymbol{e}_3))P\\
&=((\boldsymbol{e}_1\ ,\ \boldsymbol{e}_2\ ,\ \boldsymbol{e}_3)A)P\\
&=((\boldsymbol{e}_1\ ,\ \boldsymbol{e}_2\ ,\ \boldsymbol{e}_3)P)(P^{-1}AP)\\
&=(\boldsymbol{u}_1, \boldsymbol{u}_2 , \boldsymbol{u}_3)(P^{-1}AP) \cdots \spadesuit
\end{split}
\(\star\) と \(\spadesuit\) を比較して、
$$(\boldsymbol{u}_1 , \boldsymbol{u}_2 , \boldsymbol{u}_3)B=(\boldsymbol{u}_1, \boldsymbol{u}_2 , \boldsymbol{u}_3)(P^{-1}AP)$$
$$B=P^{-1}AP を得る。 q.e.d.$$
この、『形式的』な変形法をスラスラできるようになれば、表現行列に関するいかなる問題も対応できるようになるだろう。ぜひ、何度も書いてマスターしてほしい。
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