始めに
この記事では、主に大学数学をしっかり勉強したい人に向けて書いています。対象者は、大学の数学に興味がある高校生、理系の学部生、数学を趣味でやっておられる社会人の方々です。おそらく高い目標と信念を持って大学数学の世界へ足を踏み入れたことと思います。そして、何か良い教科書がないか探している矢先、この記事に出会ったことと想像します。
私自身、数学科に入ってその難解さに圧倒され、長い時間をかけていろいろな本に手を出し試行錯誤した経験があります。長い努力の末、何冊かの最高の良本に出会いました。私は、それらの本に出会ってから、本当にたくさんの本質的なことが分かってきて、日々開眼するような感じでした。(もちろん、それまでに多くの本に触れ試行錯誤した経験も活きているのでしょう。)
そのおかげで、大学の定期試験は、ほぼすべての科目で8割以上とることができ、成績も評価Aを軒並みとることが出来ました。そして何よりも数学の真の奥深さを味わうことが出来ました。ぜひ、この経験を数学を勉強しようとしている方たちと共有したいと思います。
大学数学科の思い出
大学で学ぶ数学は大きく分けると、解析学、代数学、幾何学、集合論に分けられます。
内容は高校までのそれと全く異質なもので、抽象度が桁外れに高くなります。
私自身数学科に入った当初、面食らった思い出があります。具体的な数字は全くといっていいほど出てきません。ほぼすべての議論が文字と数式と文章で展開されているのです。
日々の講義において、今何が問題とされ、何が議論されているのか?
そういうことを考えていると、いつの間にか証明が終わっている。
そして、同じことがまた繰り返される・・・。
仕方ないので私はただひたすらノートを埋めるという作業に徹していました。
これは私だけではなく、周りの友人たちに聞いても似たような答えが返ってきました。
本との出会い
何とかしたかった私は、いずれ慣れていくだろうと諦めずに理解しようと努力していきました。
しかし、『理解にかかる時間』というものは一朝一夕で改善される類のものではなく、実感としてほとんど改善されませんでした。
ほぼ毎日私は、大学図書館の自習ブースにこもり、本日の講義ノートとにらめっこをし、何とか理解しようと努めました。気が付けばいつも閉館時間まで残っていました。その間、テキストも手あたり次第読んでみました。
多くの本を手に取って読んでみると、本によって多少『分かりやすさ』に違いがあることに気づいてきます。
最終的には、一冊の本に落ち着いてくるのですが、以下ではその分かりやすかった最高の良本を紹介します。
分野別良書
解析学
$$\lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}\sum\limits_{k=1}^n f(\frac{k}{n})=\int_{0}^{1}f(x)dx$$
解析入門(田島一郎 著):解析学を学ぼうと思うならばまずこれを読むべきです。イプシロン・デルタ論法をはじめとして、重要な定義、定理をきめ細かく丁寧に説明しています。特に、証明においては学生が悩みそうなポイントをピックアップし、具体的な数字を用いて説明してくれる優しさがありがたいです。『談話室』という本文の解説を側面からバックアップする解説文が至る所にあり、非常に理解の助けとなるのもうれしいです。基本的なことだけではなく、しっかりと奥深い内容までカバーしていて、まさに後世に残したい名著だと思います。この本を理解した後に、次にあげる『解析概論』のような重量感ある教科書を読むと解析学について一通りの知識が身につくこと間違いなしです。
解析概論(高木貞二 著):解析学のキングオブ教科書です。著者は『類体論』で有名な日本が世界に誇る数学者、高木貞治先生です。文章は多少古い表現や、漢字が用いられていますが、そこがまたいいです。慣れれば非常に簡潔な表現であるがゆえに、逆にスムーズに理解が進みます。章末問題も豊富で、どの問題も非常に含蓄があり、かつ一筋縄ではいかない問題ばかりで問題演習に困ることはありません。個人的には、特に第4章の『無限級数 一様収束』、第5章の『解析関数 特に初等関数』の部分は本当にお世話になりました。いったい何度読み返したか、読めば読むほど新しい発見があり、知見が深まっていく感覚になります。文章が簡潔である分、自分が腑に落ちるまで考えなければならず、それがかえって力を養ってくれたのだと思います。ぜひ、至高の一冊を味わってみてはどうでしょうか。
代数学
代数系入門(松坂和夫 著):大学2年生くらいだったと思いますが、ガロア理論をどうしても理解したくてほぼ独学で勉強を始めました。大学で指定されている教科書や、図書館にあるテキストなどを何冊か読みましたが、力不足のせいか深い理解まで至ったかはあやしいものでした。証明は一行一行追っていけば何とか理解できますが、何か本質的なことが理解できていない感覚があってずっとモヤモヤしていました。そんな時に、当時の講師の先生から勧められたのがこの本でした。さっそく大学生協に行き購入しました。手に取ってみると、なかなか重量感があってちょっと古めかしい本だなという印象を受けましたが、最初から読み進めてみると非常に詳しく書かれている本だということがすぐに分かりました。本によっては基本的な事柄の証明などは既知のこととして飛ばしてしまうことがあるのですが、この本は、とても基礎的な事実もきちんと証明を与え、本当に一歩一歩着実に進んでいくというスタイルをとっています。したがって、時間こそかかりますが、1ページ1ページと読み進めるたびに以前抱いていたモヤモヤ感が確実に晴れていくような気持になりました。
もう一つこの本の素晴らしい点を挙げるとすれば、練習問題が豊富だということです。しかもそれらは初学者でも無理なく解けるような問題が多く、また、少し骨のある問題まで掲載されており、問題演習に事欠くことはありませんでした。解ける楽しみというものを存分に味わえる良書です。代数学の基礎はこの本一冊で確実にカバーできると思います。ただし、勉強が進んでくると気づいてくるのですが、この本から得られるのはあくまで基本的な内容過ぎないということです。そのことは『代数系入門』という本書のタイトルの通りです。基礎をこの本で固めてから、さらに専門的な本に進んでいくということになるだろうと思います。
幾何学
多様体の基礎(松本幸夫 著):はじめに大学数学は解析学、代数学、幾何学の三つが柱です。どの講義も難しいのですが、最もちんぷんかんぷんだったのが幾何学です。幾何学というと三角形や平行四辺形、あるいは立体などを想像すると思います。しかし、そのような図形は大学の幾何学においては全く出てきません。本当に全くです。集合論や写像、微分や偏微分、積分やベクトル空間などを用いて、いろいろな概念が定義されて議論が展開されていきます。図がないので全くイメージできません。完全に抽象的な概念のみに頼って、幾何学をしていく訳です。講義では、なんの準備もなしにいきなり複雑極まりない数式の羅列が黒板に延々と書かれ、これが何々の定義です、これは次の性質を持ちますと言って、これまた複雑な数式のみの証明が始まるのです。具体例など全く与えてくれず、今何をしているのかさえ分からない状況でした。これほど、高校数学とのギャップを感じたものはありませんでした。今思うと最初の何時間かは、大学の幾何学とはこういうものだというレクチャーが必須だったと思います。そして、多くの具体例も一緒に提示してイメージを持たせる工夫が欲しかったところです。(まあ、その辺のさじ加減は先生によるのでしょうが)
このようなときに救世主的な本に出合いました。それが、『多様体入門』です。この本は、著者自身が言っているように『丁寧な説明』を心がけて書かれています。予備知識として、線形代数の初歩(ベクトル空間や線形写像の定義、行列と行列式の定義)、多変数の微積分、そして位相空間の初歩知識があればスラスラと読めます。もう一度言います、すらすらと読めるんです!あのちんぷんかんぷんだった幾何学が!とても感動的でした。扱っている内容は著者も言っているように、本の厚さから想像されるほど盛沢山ではありませんが、幾何学が理解できるという感動を与えてくれる名著です。ぜひ、昔の私のように幾何学に挫折しそうになったらこの本を手に取ってみてください!
集合論
集合と位相(松坂和夫 著):代数系入門に続いて松坂和夫著の集合と位相です。同じ著者ということでおすすめの内容は代数系入門で紹介したものと大体同じです。この本も根本的な内容の説明から始まり、どんな基本的な事実もきちんと証明を与え、一歩一歩着実に進んでいくというスタイルをとっています。つまずくことを忘れさせてくれる名著です。難解な集合論の定理はたくさんありますが、どれも証明をしっかり読めば理解できるように丁寧に書かれています。丁寧な分、証明自体は多少長いのですがやはりすっきりと理解できるありがたさに比べれば全く気になりません。したがって、時間こそかかりますが、読み進めるたびに理解の深度が確実に深まっていくような気持になれます。
この本も代数系入門と全く同様に、練習問題がとても豊富です。解きやすい問題から始まり少しずつ難しい問題へと導いてくれます。集合論の問題は、高校数学で習った手法はほとんど使いません。集合論独自の記号や写像という概念を用いて証明をしていくのですが、最初は慣れていないせいもあって、とても難しく感じるのですが、コツコツと問題演習を続けていくうちに気づけばスラスラと解答できるようになってきます。集合論は数学の言葉と言われることもあって、ここで培った記述力は、後ほど論文を書く時に大きな助けとなるでしょう。解ける楽しみというものを存分に味わえる良書です。集合論の基礎はこの本一冊で確実にカバーできると思います。
まとめ
さて、いかがだったでしょうか。ここで紹介した本は、有名なものばかりですのですでに知っているという人も多いと思います。私があえて薦めるのは、いろいろな教科書に触れ、実際に長い時間を掛けて読み込み、問題を解き、その上で一番ためになると思ったからです。
線形代数学の教科書についても何か一冊あるかどうか考えたのですが、私に関していえば指定された教科書をやり込んだだけなので、それほど線形代数に関する色々な教科書に触れたわけではありませんでした。なので、何とも言えないということです。ぜひご自分で見つけてください。
以下に紹介した本をまとめておきます。
解析学
- 解析入門(田島一郎 著)
- 解析概論(高木貞二 著)
代数学
- 代数系入門(松坂和夫 著)
幾何学
- 多様体の基礎(松本幸夫 著)
集合
- 集合と位相(松坂和夫 著)
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