先生、教えて❕ ~微分積分編~(第十一回)

微分積分編

(続) 指数関数の微分

マサト先生
マサト先生

やあ、こんにちは。今回は前回の続きである指数関数の微分についてやっていこう。

ヒロト
ヒロト

はい、よろしくお願いします!

マサト先生
マサト先生

さて、前回我々は自然対数の底なるものを定義し、それを用いて指数関数

$$f(x)=\mathrm{e}^{x}\ を定め、重要な性質\ (\mathrm{e}^{x})’=\mathrm{e}^{x}$$

が成り立つことを見たのであったな。

ヒロト
ヒロト

微分した関数、つまり導関数が自分自身という驚きの性質をもった関数でした。

マサト先生
マサト先生

この関数 \(f(x)=\mathrm{e}^{x}\) には名前があって、exponential functionというのだ。exponential(イクスポネンシャル)は指数、function(ファンクション)は関数を表す英語だ。名前があった方が便利なのでこの授業では略してexp(イーエックスピー)と呼ぶことにしよう。さて、今回このexpを利用して一般の指数関数 \(f(x)=a^{x}\) を微分するのだが、そのためにはどうしてもあと一つ道具が必要となるのだ。

ヒロト
ヒロト

その道具とは一体何ですか?


合成関数の微分

マサト先生
マサト先生

それは、合成関数の微分という道具なんだ。合成関数の微分公式と言ってもいいが、公式というよりはテクニックに近いと思うのであえて道具と読んでいるぞ。これが、微分に関する最後の道具だと思っていいぞ。まずは、合成関数がどういうものなのかをしっかり理解することが大切だ。合成関数とは、ある関数にある関数が代入された形になっている関数のことだ。

ヒロト
ヒロト

関数に関数が代入された形ですか?

マサト先生
マサト先生

ああ、つまり二つの関数 \(f(x)\) と \(g(x)\) があって、どちらでもよいが一方に一方が代入された \(g(f(x))\) や \(f(g(x))\) で定められた関数のことを言うのだ。下の具体例を見てほしい。

合成関数の具体例

(例1) 
\(f(x)=x-1\ ,\ g(x)=x^{2}+x+1\) のとき、
\(g(f(x))=(x-1)^{2}+(x-1)+1=(x^{2}-2x+1)+x=x^{2}-x+1\)、一方、
\(f(g(x))=(x^{2}+x+1)-1=x^{2}+x\)

(例2)
\(f(x)=\sin x\ ,\ g(x)=x^{2}+1\) のとき、
\(g(f(x))=(\sin x)^{2}+1=\sin ^{2}x+1\)、一方、
\(f(g(x))=\sin (x^{2}+1)\) となる。

マサト先生
マサト先生

この例から分かるように一般には、

$$g(f(x)) \ne f(g(x))$$

であることに注意してくれ。

数学の言葉で関数の合成は交換法則が成り立たない、と言うこともある。

ヒロト
ヒロト

ふむふむ。

マサト先生
マサト先生

さて、合成関数の微分とは読んで字のごとく、上の例のような合成関数を効率よく微分するための計算なのだ。まずはこれがどういうものなのかを紹介しよう。上の(例1)

\(f(x)=x-1\ ,\ g(x)=x^{2}+x+1\) のとき、
\(g(f(x))=(x-1)^{2}+(x-1)+1=(x^{2}-2x+1)+x=x^{2}-x+1\) を使ってやってみよう。

ヒロト、この関数 \(g(f(x))=x^{2}-x+1\) をとりあえず微分してみてくれ。

ヒロト
ヒロト

はい、多項式の微分はもう極めています。

ヒロトノート

\(\left\{g(f(x))\right\}’=(x^{2}-x+1)’=2x-1\)

マサト先生
マサト先生

うむ、正解だ。では、次にこの関数 \(g(f(x))\) にあえて合成関数の微分を適用してみる。合成関数として微分するには次の公式を適用する。

合成関数の微分公式

$$\left\{g(f(x))\right\}’=g'(u) \cdot f'(x)\ \ ただし、u=f(x)$$

マサト先生
マサト先生

公式の右辺において、\(g(u)\) は \(u=f(x)\) と置いたときの \(u\) の関数である。つまり、もともとの形の \(g(x)\) の \(x\) を \(u\) に書き換えたものに他ならない。この公式を用いると次のように計算されるのだ。

合成関数としての微分

$$\left\{g(f(x))\right\}’=g'(u) \cdot f'(x)=(u^{2}+u+1)’ \cdot (x-1)’=2u+1$$

$$そして、u=f(x)=x-1を代入して、$$

$$(上式)=2u+1=2(x-1)+1=2x-1$$

マサト先生
マサト先生

どうだ!同じ結果になっただろう?

ヒロト
ヒロト

すみません、なんか面倒になったように思うのですが・・・

マサト先生
マサト先生

そう思うのは、ヒロトが微分したのは \(g(f(x))\) を計算して整理した後だからだ。合成関数の微分公式を用いた計算では \(g(f(x))\) を計算して整理する必要がなく、いきなり微分計算を始められることができるのだ!もっと強力な具体例をお見せしよう。ヒロトよ、\(f(x)=(2x+100)^{10}\) を微分せよと言われたらどうする?

ヒロト
ヒロト

これは、 \((2x+100)^{10}\) を展開して多項式の形に直しさえすれば、できると思うのですが、とても現実的ではないですね。


合成関数の微分の威力

マサト先生
マサト先生

ふふふ、そうだろう?この関数に合成関数の微分を適用すれば、もはや暗算で計算できるレベルになるのだ。合成関数の微分法は関数によっては最強の武器と化すのだ!

ヒロト
ヒロト

暗算でできるのですか!それはシンプルにすごいですね!

マサト先生
マサト先生

合成関数の微分を適用するためには、まず与えられた関数が合成関数となっていなくては話にならない。なので、今回の関数 \(f(x)=(2x+100)^{10}\) がある関数 \(g(x)\) にある関数 \(f(x)\) が代入された関数になっていることを見抜かなければならない。その際、\(g(x)\) と \(f(x)\) の定め方に決まりはない。どうだ?自分で見つけることができるかな?

ヒロト
ヒロト

はい!すぐに見えました!

\(g(x)=x^{10}\) に \(f(x)=2x+100\) が代入された合成関数とみなすことができます。

ヒロトノート

\(g(x)=x^{10}\) に \(f(x)=2x+100\) を代入すると、\(g(f(x))=(2x+100)^{10}\)

マサト先生
マサト先生

うむ、素晴らしい!

では、この合成関数に、合成関数の微分公式を適用するとどうなる?

ヒロト
ヒロト

先ほどの公式通りやるということですよね?

合成関数の微分公式

$$\left\{g(f(x))\right\}’=g'(u) \cdot f'(x)\ \ ただし、u=f(x)$$

ヒロトノート

\(g(x)=x^{10}\ ,\ f(x)=2x+100\) だから、

$$\left\{g(f(x))\right\}’=g'(u) \cdot f'(x)=g'(u) \cdot f'(x)$$

$$=(u^{10})’ \cdot (2x+100)’=10u^{9} \cdot 2=20u^{9}$$

最後に \(u=f(x)=2x+100\) を代入して、

$$\left\{g(f(x))\right\}’=20(2x+100)^{9}$$

ヒロト
ヒロト

すごい!本当に簡単にできちゃった!

マサト先生
マサト先生

うむ、完璧だ!このように与えられた関数が、合成関数になっていることを見ぬくことできたならば、ぜひ使うべき計算法なのだ!

ヒロト
ヒロト

はい!とても強力な計算法だということはよく分かりました!

でもまだ、合成関数の微分公式の証明をしていませんよね?

マサト先生
マサト先生

うむ。とりあえず使い方を知ってもらったということだな。証明は、とても常人には気づかないテクニックを使っている。じっくり説明していくので頑張ってついてきてくれ。


合成関数の微分公式の証明

合成関数の微分公式の証明

$$\left\{g(f(x))\right\}’=\lim_{h \to 0}\frac{g(f(x+h))-g(f(x))}{h}$$

マサト先生
マサト先生

ここからどうするか問題なのだが、次のようなテクニカルな変形をするのだ。これはなかなか気づかないな、実際。

$$=\lim_{h \to 0}\frac{g(f(x+h))-g(f(x))}{f(x+h)-f(x)}\cdot\frac{f(x+h)-f(x)}{h}$$

マサト先生
マサト先生

そして、\(\lim_{h \to 0}\) を2つの分数に分けて、

$$=\lim_{h \to 0}\frac{g(f(x+h))-g(f(x))}{f(x+h)-f(x)}\cdot\lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}\ \cdots\ (\spadesuit)$$

マサト先生
マサト先生

ここからの議論も結構難しいから集中していこう。ポイントは、とにかくどうにかして微分の定義式を作るということだ!

ここで、\((\spadesuit)\) の左側の極限値の分母について

$$\lim_{h \to 0}\{f(x+h)-f(x)\}=f(x)-f(x)=0$$

であるから、\(h’=f(x+h)-f(x)\) と置くと、\(h \to 0\) のとき \(h’ \to 0\) であり、\(f(x+h)=f(x)+h’\) と書けるから、

$$\lim_{h \to 0}\frac{g(f(x+h))-g(f(x))}{f(x+h)-f(x)}=\lim_{h \to 0}\frac{g(f(x)+h’)-g(f(x))}{h’}\ \cdots\ (\star)$$

が成り立つ。

マサト先生
マサト先生

最後に、\(u=f(x)\) と置くことにより微分の定義式が完成するぞ!

$$(\star)=\lim_{h \to 0}\frac{g(u+h’)-g(u)}{h’}=g'(u)$$

と書けることが分かる。\((\spadesuit)\) の左側の極限値は、定義によりもちろん

$$\lim_{h \to 0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}=f'(x)$$

となる。以上により、

$$\left\{g(f(x))\right\}’=g'(u) \cdot f'(x)\ \ ただし、u=f(x)$$

が成り立つ。                                \(q.e.d.\)

ヒロト
ヒロト

うわー!本当にテクニカルな証明ですね!微分の定義式を何とかして作ろうという、その工夫が常人の能力を超えています!


最後の一山

マサト先生
マサト先生

うむ、こういうときは以前も言ったが、心穏やかに芸術作品でも見るような心境で眺めればいいのだ。いずれにしても、これで晴れて合成関数の微分公式がつかえるようになったぞ!さて、我々の本来の目的を思い出そう。我々は、一般の指数関数 \(y=a^{x}\) を \(y=\mathrm{e}^{x}\) を用いて微分するということであった。さあ、最後の一山を超えて今回を締めくくろうじゃないか!

ヒロト
ヒロト

うーん、何かヒントを下さい!

マサト先生
マサト先生

ああ、いいだろう!いいかい?すべての関数に対していえることなのだが、次の変形法を使うのだ。

expに関する変形法

$$すべての関数\ f(x)\ は、f(x)=\mathrm{e}^{logf(x)}\ と変形される。$$

マサト先生
マサト先生

ちなみに、対数関数の底が書かれてないとき、その底は \(\mathrm{e}\) とするという約束がある。したがってこの等式は、対数関数の定義から明らかな式である。

よろしいか?この変形法を使うと、一般の指数関数はどうなるかやってごらん!

ヒロト
ヒロト

はい、やってみます!

ヒロトノート

$$y=a^{x}=\mathrm{e}^{\log (a^{x})}=\mathrm{e}^{x \log a}$$

ヒロト
ヒロト

えっと、こうなりました!

マサト先生
マサト先生

すると、これが合成関数になっていることはすぐ分かるな?また自分で見つけてごらん。そして、分かったらそれに合成関数の微分公式を適用して結果を求めてみよう!

ヒロト
ヒロト

はい!えーと、ふむふむ、なるほど確かに合成関数となっていますね!では、やってみます!


指数関数の微分の結論

ヒロトノート

$$y=a^{x}=\mathrm{e}^{\log (a^{x})}=\mathrm{e}^{x \log a}$$

これは、\(g(x)=\mathrm{e}^{x}\) に \(f(x)=x\log a\) という一次関数が合成された、合成関数となっている。よって、合成関数の微分公式より、

$$\left\{g(f(x))\right\}’=g'(u) \cdot f'(x)=(\mathrm{e}^{u})’ \cdot (x\log a)’=\mathrm{e}^{u} \cdot \log a$$

最後に、\(u=x\log a\) を代入して、\(\mathrm{e}^{x\log a}=\mathrm{e}^{\log a^{x}}=a^{x}\) に注意すると、

\((a^{x})’=a^{x}\log a\) となる。

ヒロト
ヒロト

出来ました!結果は

$$(a^{x})’=a^{x}\log a$$

です!

マサト先生
マサト先生

正解だ!今回は、いろいろな内容が盛りだくさんで長く険しい道だったが最後までよく頑張ったな。今回、合成関数の微分公式をゲットしたので次回はかなり楽に進められるだろう。では、今日はここまでにしよう。お疲れさん。

ヒロト
ヒロト

とても疲れました!しっかり復習しなくちゃ。今日もありがとうございました!

ヒロトノート

指数関数 \(f(x)=a^{x}\ \ (aは1以外の正の整数)\) の微分:

$$(a^{x})’=a^{x}\log a$$

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